ガソリンエンジンにおける燃料装置はインジェクターがすべてといってもいいほど、重要な部品です。
頻繁に故障する部品ではないので故障診断の重要度は低いですが、インジェクターが故障した時は正常時と比べて各データが異なります。
各センサーの数値をご紹介しますので、エンジン不調の車を点検する時に参考にして下さい。
このページの車両データは「トヨタ アクア NHP10」です。
目次
インジェクターとは
イメージ画像:HONDAインジェクター
インジェクターは燃料(ガソリン)を噴射する部品です。
電磁弁付インジェクションノズルと言います。
インテークマニホールドに装着され、1つの気筒(シリンダー)に1本使っているので、3気筒エンジンですと3本、4気筒エンジンなら4本使います。
インジェクターの役割
イメージ画像:HONDAインジェクター
エンジンは各シリンダーごとに
- 吸入
- 圧縮
- 爆発
- 排気
この4つを繰り返します。
1番の吸入は、空気のことですが、空気がシリンダーに充満するとバルブを閉じて圧縮工程に入ります。
ガソリンは液体では引火しないので、インジェクターで強く噴射して細かくし、気化を促進させます。
圧縮工程入る寸前にインジェクターが開いてガソリンを噴射し、気化したガソリンと空気を混合させます。
※排気工程中に噴射するタイプもある
この作動を同期噴射といいます。
インジェクターはセンサー機能はないので、コンピューターから送られてくる信号を元に決められた時間だけ燃料を噴射する装着です。
インジェクターの仕組み
上はニッサンの整備マニュアルに記載されているインジェクターの参考図です。見やすかったので参考にさせていただきました。
プレートが噴射口になっています。
普段は中央のスプリングの力でニードルバルブを押し下げてプレートを塞いで燃料が出ないようにしてあります。
エンジン稼働中はバッテリーからのパルス電圧がインジェクターに印加されており、コンピューター内のトランジスタをONにしてアース回路が成立するとインジェクターに電流が流れます。
バッテリーインジェクターECU信号でトランジスタONアース
インジェクターに電流が流れるとそのまま内部のソレノイドコイルに電流が流れ磁力が発生します。
ニードルバルブはスプリングの力で閉じていますが、ソレノイドコイルに電流を流すと電磁力で開きます。
急加速やパワーを要する時は燃料を濃くする必要があるので、ソレノイドコイルに電流を流す時間を増やしてニードルバルブのオープン時間を長くします。
更に基本の同期噴射に加えて即時に燃料噴射させる非同期噴射を実行します。
エンジン回転が不安定な冷間時などはパワーは不要でも安定したアイドリングをさせるために、燃料噴射時間を長くして燃料を濃くします。
インジェクターが故障した時の各数値データ
上記各センサーの解説は「吸入空気量を計算してエンジン不調の原因」ページをご覧ください。
インマニ圧力 実測値
正常時1000rpm | 2500rpm |
25kPs | 32kPs |
1000rpm | 2500rpm |
30kPs | 28kPs |
故障時は正常時より5kPs増えています。回転数を上げてインマニ圧力が下がるのはエンジンが正常に近づくためです。
回転数が上がれば上がるほど惰性によってエンジン回転が安定します。
吸入空気量 実測値
正常時1000rpm | 2500rpm |
2.01g/s | 5.53g/s |
1000rpm | 2500rpm |
2.04g/s | 6.18g/s |
インジェクタ故障時のアイドリングでは0.03g/s多いですが、ISC流量が多いので妥当な数値です。
ISC流量 実測値
正常時1000rpm | 2500rpm |
1.65L/s | 1.87L/s |
1000rpm | 2500rpm |
1.70L/s | 4.97L/s |
アイドリング回転(1000rpm)時は0.05L/s多くなっています。
エンジン回転を安定させるためにISCバルブを通常より多め開いています。
A/Fセンサ電圧 実測値正常時
1000rpm | 2500rpm |
3.317V | 3.293v |
1000rpm | 2500rpm |
3.361V | 3.161V |
故障時のアイドリングはリーン寄りです。
回転数を上げるとリッチ寄りになっています。
理論空燃比の範囲内ですが、下のグラフを見るとインジェクタ故障時はリッチとリーンの範囲を超えてしまいそうなほど、不安定です。燃料補正が安定していない証拠です。
燃料補正量 実測値正常時
1000rpm | 2500rpm |
7.03% | 8.593% |
1000rpm | 2500rpm |
32.812% | 32.812% |
20%以上はリーン状態、20%未満はリッチ状態ですが、32%を超えているのでインジェクタ故障時はスーパーリーン状態と判断していることがわかります。
燃料噴射時間 実測値正常時
1000rpm | 2500rpm |
2115μs | 2933μs |
1000rpm | 2500rpm |
2586μs | 2933μs |
燃料補正量がかなり多いので燃料噴射時間も増えます。
インジェクターの故障とイグニッションコイルの故障とエアー吸い込み故障によって変化するデータをグラフにまとめました。
それぞれの故障で特徴がありましたので、参考に見て下さい。
点火,空気,燃料 3つの故障を比較したグラフ
点火系の故障はイグニッションコイルの電源線断線です。
空気系の故障は吸気ダクトの亀裂によるエアーの吸い込みです。
燃料系の故障はインジェクターの電源線断線です。
この3つがそれぞれ故障した時の数値をグラフにしました。
グラフ説明
名称を以下のように短縮してグラフを作成
- IGコイルNG = イグニッションコイル故障
- インジェクタNG = インジェクタ故障
吸入空気量の変化グラフ
インジェクターの故障とイグニッションコイルの故障では吸入空気量変化はほぼ同じでした。
どちらも1気筒だけの失火なので、吸入空気量が少し高めで同じになるようです。
ISC流量の変化グラフ
ISC流量も吸入空気量と同じでインジェクターとイグニッションコイルの故障では同じ数値になりました。
これも1つの気筒だけ失火している特徴のようです。
2500回転の時は数値がかなり大きくなるのは、エンジン不調時の特徴です。
A/Fセンサー電圧の変化のグラフ
A/Fセンサーは正常と変わりません。
インジェクターが故障しているのでリーンになると思いますが正常値でした。
次の燃料補正量を見ると燃料が薄くない理由がわかります。
燃料噴射補正量の変化のグラフ
インジェクターが故障している時は燃料の量を増やさなければならないので補正量が多くなっています。
そうすることで、残りのシリンダーのパワーも大きくなり、エンジンも安定方向に向かいます。
燃料噴射時間の変化のグラフ
燃料補正量が増えているので燃料噴射時間が長く補正されています。
燃料噴射時間が長ければ燃料噴射量も増えます。
数値で見るインジェクター故障の特徴
グラフを見てもわかるようにインジェクターの故障は燃料噴射時間と燃料噴射補正が多くなっています。
燃料系統の故障なので燃料を濃くする方向に制御されるのは当然ですが、今回の実験で吸入空気系統も増量させている事がわかりました。
燃料が足りない状態なのにこれ以上吸入空気を増やす意味はないと思ってしまいますが、空気も燃焼させる物質の1つです。
吸入空気を増やすと更に燃料が薄なってしまいますが、エンジンを安定させるには回転数を上げる必要があります。
エンジン回転を上げるには燃焼物質の空気量も増やすことは必須です。
空気量に伴ってガソリン量も増やしていますが、今回は燃料噴射が故障していますので、実際の燃料噴射は少ないままです。
そこで、空気量を増やすだけで無理やりエンジン回転を上げなければならないので、アクセルペダルをゆっくり大幅に踏み込む必要があり、2500rpmに達した時点でISCバルブが大きく開いて吸入空気量とISC流量がとても大きくなっていました。
特徴まとめ
- 燃料補正量が30%以上になる
- 燃料噴射時間が1000rpmで2500μs以上になる
- 燃料噴射時間が2500rpmで2900μs以上になる
以上が特徴になりますが、この3つの状態なら燃料がとても濃いので空燃比はリッチになるはずなのに空燃比センサーの数値が3.1V~3.4Vの正常範囲内です。
この結果はインジェクターの1つが故障して燃料を噴射していないのでリッチにならない事が予想できます。