燃料、火花、圧縮の3つが基準値内でなければ、エンジンはアイドリング不調や加速不良、エンストなどの不具合が発生します。
上の3つはセンサーで管理されており、基準値から外れると警告灯が点灯するように閾値が設定されている事が多いです。
しかし、一定時間以上、閾値を越えなければ警告灯を点けない故障も多く「故障しかけている」や「温度や速度など一定条件」では警告灯が点灯せず、故障コードも記憶しないため、故障診断が困難な故障も多々あります。
今回は比較的に警告灯を点灯させない事が多い「エアー漏れ」や「エアーの吸い込み」によるエンジン不調について故障診断方法を解説いたします。
故障診断に使用した車両 トヨタ アクア NHP10
目次
エアーダクトから吸い込み故障の実験
今回はエアー吸い込み故障をあえて作り出し、データモニターを見てエアー吸い込みが発生すると、「どのセンサーの数値が上がる」「どのセンサーの数値が下がる」かを正常状態と比較して調べていきます。
下の画像の青丸がエアーダクトです。このホースを完全に外すとエンストしてしまうので、少しだけ隙間を作ります。
赤丸はEGRという部品ですが、別のページでEGRの故障した時のデータと故障診断方法を解説するので興味のある方はご覧になってください。
エアー吸い込み故障で一番多いのがエアーダクト、ブレーキ負圧ホースなどインテークマニホールド付近に接続されているゴムホースの亀裂です。
10年ほど経過した車は亀裂によるエアー吸い込み故障が増えるので、このデータを見てエアー吸い込みが原因か判断するヒントにして下さい。
故障判断に使用するデータ
図1:エンジン制御センサ
エンジンは多くのセンサを使っています。(図1参照)中央がエンジンで左が吸気側、右が排気側です。
左から空気が流入し、インジェクタでガソリンと混合し、エンジンで燃焼、マフラーに排気ガスが出る、といった流れです。
スキャンツールを使うと各センサのデータを見る事ができます。
警告灯が点かないエンジン不調は下の5つのデータを見ます。
- インテークマニホールド圧力
- 吸入空気量
- ISC流量
- A/Fセンサー電圧
- 燃料補正量
故障診断の精度を上げる為にアイドリング(1000rpm)状態とアクセルを踏んで2500rpmまで回転数を上昇させた状態の2パターンを正常なデータと比較します。
まず最初にそれぞれの役割をご紹介します。
インテークマニホールド圧力
インテークマニホールドは空気とガソリンをエンジンに送る通路です。
今回のエンジンは4気筒なので、エンジンの入り口で4つに分かれ、空気とガソリンが送り込まれます。
マニホールドの入り口は大気です。マニホールドの出口はエンジン内部です。
エンジンはピストンの力で空気を吸い込みますので、エンジンがかかっているとマニホールドの中の気圧は大気圧の半分以下になります。
一般的には大気圧は100kPs、インテークマニホールド圧は30kPsが標準の値になっています。
圧力はインテークマニホールドについている圧力センサーで測定し、電圧の変化をkPsに変換してエンジンコンピューターに送り、点火時期制御、燃料噴射時間制御、電子スロットルバルブ開度制御に使われます。
例えば、大気圧とインマニ圧を比較し、空気密度がわかれば、エアフローセンサによる吸入空気量に対して燃料噴射量を補正するマップ制御として利用します。
インマニ圧力 実測値
正常時1000rpm | 2500rpm |
25kPs | 32kPs |
1000rpm | 2500rpm |
32kPs | 30kPs |
エアー吸い込み時は正常時より7kPs増えています。
吸入空気量
空気を吸い込む入り口に吸入空気量を測定するエアフローセンサがついています。
エアフローセンサは通常、エアークリーナーの近く(図1)についており、空気流量によって電圧を変化させる熱線を使って吸入空気量を電圧に変えてコンピューターに送ります。
吸入空気量によって燃料噴射量やISCバルブの開度を変えるとても大事なセンサです。
吸入空気量 実測値正常時
1000rpm | 2500rpm |
2.01g/s | 5.53g/s |
1000rpm | 2500rpm |
1.42g/s | 4.12g/s |
今回のエアー吸い込みは故障の中で最も多い図1のエアフローセンサーとスロットルポジションセンサー間のゴムホースの亀裂です。
エアフローセンサーの後でエアーを吸い込むのでエアフローセンサーの吸入空気量が減るのが1番の特徴です。
ISC流量
ISCはアイドルスピードコントロールの略で、アイドリング回転数を自動調整している部品です。
アイドリングの回転数を調整するバルブの事をISCVやISCバルブと呼び、ISC流量はISCを空気が通過できる体積です。
ですのでISCバルブの開度で流量が決まります。
ISCバルブの開度はアイドリング回転数、水温、吸入空気量などよって変化させて安定したアイドリング状態を保持します。
ISC流量 実測値正常時
1000rpm | 2500rpm |
1.65L/s | 1.87L/s |
1000rpm | 2500rpm |
1.87L/s | 5.61L/s |
エアー吸い込み影響でエアフローセンサーの吸入空気量が少ないので、ISCバルブを開いて空気量を調整しようと多めに開いています。
エンジン不調でアクセルを踏んでも回転数が上がらないため、2500rpmの開度はかなり大きくなるのが特徴です。
A/Fセンサー電圧
A/Fセンサーは空燃比センサーといい、有害排気ガスを減らすために、ガソリンと空気の割合を調整するための酸素濃度センサーです。
図1のエンジン右側のA/FセンサとO2センサの間のパイプは触媒で、触媒前で排気ガス中の酸素を測定し、酸素が多いと電圧が高くなり、酸素が少ないと電圧が低くなります。(グラフ1参照)
グラフ1:A/Fセンサ電圧 リッチ、リーン電圧
空燃比センサは電圧が3.4V以上になるとリーン(燃焼が薄い)、3.1V以下ならリッチ(燃焼が濃い)状態と判断します。
その為、コンピューターは空燃比センサの信号を受けて3.4V以上なら燃焼を濃くするように吸入空気量に対して燃焼噴射時間を長くします。
逆に3.1V以下なら燃料を薄くするため、吸入空気量に対して燃料噴射時間を短くします。
A/Fセンサ電圧 実測値正常時
1000rpm | 2500rpm |
3.317V | 3.293v |
1000rpm | 2500rpm |
4.083V | 4.200V |
エアー吸い込み時は空気量が多いのでリーンになっています。
燃料補正量
燃料噴射量は吸入空気量やエンジン回転数、ISCバルブ、スロットルポジションなど、多くのセンサーのフィードバックを元に算出されますが、空燃比センサからの信号は特に重要な位置にいます。
燃料補正量はプラスなら燃焼噴射を増量し、マイナスなら減少させます。
この制御も吸入空気量が関係してきます。
エアーの吸い込みで実際の吸入空気量は測定値より多くなっているのでA/Fセンサが「排気ガスの酸素が多い」とコンピュータに信号を送り「燃料より空気が多い=燃料を増やす」とコンピュータが判断し燃料補正量をプラスにします。
逆に薄くしたい場合は燃料補正量をマイナスにします。
燃料補正量 実測値正常時
1000rpm | 2500rpm |
7.03% | 8.593% |
1000rpm | 2500rpm |
28.124% | 26.562% |
20%以上はリーン状態、20%未満はリッチ状態です。
燃料補正量は大幅にプラスになっているのでこのエンジンはリーン状態のため、燃料を濃くしようとているのがわかります。
以上の結果から推測できることをまとめます。
各センサの数値で推測できる故障個所
インテークマニホールド圧力の値でわかる故障
不調の時はアイドリングでは正常値より7kPs分大気に近いことから、スロットルバルブからエンジンまでの間で空気を吸い出す力(負圧)が弱っているのが考えられます。
吸い出す力が弱る原因2つ
- エンジンの吸引力不足
- エアーの吸い込み過多
エンジンの吸引力不足はエンジン本体の圧縮不良が考えられます。
エアーの吸い込み過多はマニホールドからのエアーの吸い込みかスロットルバルブの開きすぎが考えられます。
グラフ2: エア漏れのインマニ圧力の変化
グラフ2のように正常時はエンジン回転数を上げるとインマニ圧力もあがりますが、エアー吸い込み時はエンジン回転を上げるとインマニ圧力が「下がる」もしくは「変化しない」ことがよくあります。
インテークマニホールド圧力でわかる故障は以下の3つです。
- エンジンの圧縮不良
- マニホールド付近のエアー吸い込み
- スロットルバルブの開きすぎ
吸入空気量の数値でわかる故障
不調の時はアイドリングでは吸入空気量が0.59g/s少なくなっています。
回転数を上げても正常より吸入空気量が少ないのはエアフローセンサを通過する空気量が少ないということです。
空気流が少ない原因3つ
- エンジンの吸引力不足
- エアフローセンサ後ろからエンジン間のエアー吸い込み
- スロットルバルブが閉じている
エンジンの吸引力不足はエンジン本体の圧縮不良が考えられます。
エアーの吸い込みは途中のパイプやホースの亀裂などです。
スロットルバルブが開かなければ空気を吸い込めません。
吸入空気量でわかる故障は以下3つです。
- エンジンの圧縮不良
- エアーの吸い込み
- スロットルバルブの動き不良
ISC流量の数値でわかる故障
エンジン不調時はISC流量が多くなっています。
ISC流量が多いのはスロットルバルブが基準より多く開いているという事です。
ISC流量が多い原因3つ
- デポジットが溜まっている
- アイドリング回転数が不安定
- 吸入空気量の数値が少ない
デポジットとは燃焼後に発生する炭素です。
ISCバルブに炭素が蓄積するとISCバルブが閉じなくなります。
エンジン回転数が不安定(回転数が低い)だとISCバルブを開きます。
エアフローセンサで測定した吸入空気量が少ないと、吸入空気量を増やすためにISCバルブを開きます。
ISC流量からわかる故障は以下2つです。
- 失火している
- 吸入空気量の異常
A/Fセンサ電圧でわかる故障
異常時のA/Fセンサ電圧をグラフ2にあてはめると、リーンになっているのがわかります。
リーンは燃料が薄いということです。
A/Fセンサの電圧が高い原因3つ
- 燃料噴射噴射量が少ない
- 吸入空気量が多い
燃焼噴射しないかったり、少ないと燃料が薄くなります。
吸入空気量が燃料の量と比較して多いと燃料が薄くなります。
A/Fセンサ電圧でわかる故障は以下の2つです。
- インジェクタの故障
- 吸入空気量の異常
燃料補正量でわかる故障
燃料補正は今、「燃料を多くするか?」「燃料を少なくするか?」を各系統に指示します。
燃料補正が高い原因2つ- 燃料噴射量が少ない
- 吸入空気量が多い
この2つはA/Fセンサ電圧が高くなる原因です。
ですので燃料補正量でわかる故障はA/Fセンサの時と同じ下記2つになります。
- インジェクタの故障
- 吸入空気量の異常
エアー吸い込み故障を判断する方法
今回の数値を元に考えられる故障を前項で調べましたが、重複している箇所もあるので整理したところ、下の5つが残りました。
- エンジンの圧縮不良※
- エアーの吸い込み
- ISCバルブの動き不良
- インジェクタの故障
- 吸入空気量の異常
まず、図1.のエンジン制御センサ結果を左から見ていきます。
エアフローセンサの吸入空気量が少ないので、ISCバルブを開くように信号を送り、開度を大きくします。
ISCバルブが開くと大気圧に近づき、インマニ圧力数値が増えます。
A/Fセンサからはリーン信号が出ている事から
- 「燃料が少ない」
- 「空気量が多い」
のどちらかの異常が発生しているのがわかります。
どちらにしてもリーン信号が出ているので、燃料補正量はプラスになります。
インジェクタは4気筒に1つずつ装着されているので、インジェクタが1つ故障すると失火カウンターによってエンジン警告灯が点きますので、「燃料が少ない」方の異常と判断します。
今回は空気量が多いのにエアフローセンサは空気量が少ない信号を出しています。
そうなりますと、残るはエアフローセンサの故障かエアーの吸い込みのどちらかになります。
※(1)のエンジンの圧縮不良は全部の気筒で発生することはまずありません。そうなると失火カウンターが失火を検出しエンジン警告灯が点灯するので警告灯がつかない場合は故障探求から除外します。
実際の吸入空気量を計算【理論空燃比のグラフ】
今回の車両データを見ると、吸入空気量は正常2.01g/s、エア吸い状態で1.42g/sです。差は0.59g/sです。
とりあえず、この0.59g/sが亀裂からのエアー吸い込み量と考えます。この吸入空気量の差を無くすためにコンピュータは空気制御します。
制御方法はISCバルブを開いてISC流量を増やします。その為、この車はISC流量を正常値の1.65L/sから1.87L/sにしています。
0.22L/s分のISCバルブ開度が大きくなっています。そして、この空気の体積が増えたのでインマニ圧力も25kPsから32kPsに増えています。
空気1Lを1.3gとして計算すると0.22L/sでは0.28g/sになります。エアー吸い込み量は0.59g/sでした。
これとISC流量を合わせると吸入空気量は0.87g/s増えたことになります。この吸入空気量を正常時の吸入空気量に足すと2.88g/sになります。
数値上ではアイドリングで1.42g/sでしたが実際は2.88g/sがエアー吸い込み時の空気量だと考えます。
そうなると、この車は実際の空気量は2.88g/sなのにエアフローセンサが出した1.42g/sのガソリン量しか噴射していないことになります。吸入空気量1.42g/sの理論空燃比ですと0.097g/sのガソリン量になります。
2.88g/sの時のガソリン量は0.197g/s必要になりますが、ガソリン噴射量は今回計算した空気量(0.097g/s)に対して0.1g/s少ないので、A/Fセンサはリーンになります。
この吸入空気量とガソリン量でA/Fセンサ電圧は4.083Vになっています。
- 吸入空気量2.01g/sの時 A/Fセンサは3.317v
- 吸入空気量2.88g/sの時 A/Fセンサは4.083v
この数値で吸入空気量とA/Fセンサ電圧のグラフを作成します。
グラフ2:吸入空気量とA/Fセンサ電圧
グラフの式
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理論空燃比は「3.1V≦ A/F電圧 ≦3.4V」なので、この式にリッチ電圧3.1Vを入れると吸入空気量は1.76g/sになります。
リーン電圧3.4Vですと吸入空気量は2.1g/sになります。
よって理論空燃比にするにはアイドリングで吸入空気量1.76g/s~2.1g/sの間でなければなりません。
故障が発生すると、このグラフ2の傾きから離れた数値になりますが、データ比較することで故障個所を予測することができます。
理論空燃比リッチリーンと吸入空気量を比較して故障を特定
以下はA/Fセンサとエアフローセンサが正常、なおかつ回転数1000rpmとして考えています。
故障1.A/Fセンサ電圧が3.4V以上(リーン)で吸入空気量が1.76g/s(理論空燃比下限)未満の場合 |
推定箇所 エアーダクトなどエアフローセンサからISCバルブ間のエアーの吸い込み |
故障2. A/Fセンサ電圧が3.4V以上(リーン)で吸入空気量が2.1g/s(理論空燃比上限)以上の場合 |
推定箇所 ISCバルブの故障 |
故障3. A/Fセンサ電圧が3.4V以上(リーン)で吸入空気量が1.76~2.1g/sの理論空燃比の場合 |
推定箇所 インジェクタの故障(出ない) |
故障4. A/Fセンサ電圧が3.1V未満(リッチ)で吸入空気量が1.76g/s(理論空燃比下限)未満の場合 |
推定箇所 ISCバルブの故障かエアークリーナーの詰り |
故障5. A/Fセンサ電圧が3.1V未満(リッチ)で吸入空気量が2.1g/s(理論空燃比上限)以上の場合 |
推定箇所 スパークプラグやイグニションコイルなど点火系の故障 |
故障6. A/Fセンサ電圧が3.1V未満(リッチ)で吸入空気量が1.76~2.1g/sの理論空燃比の場合 |
推定箇所 インジェクタの故障(後ダレ) |
今回の実験でエアー吸い込み時の特徴は「リーン異常なのに吸入空気量が少ない」と「インマニ圧力がエンジン回転を上げると下がる」の2つでした。
実際にこのデータに近い状態なら吸気系の亀裂や隙間などエアーの吸い込みを最初に点検して下さい。