少し不思議な故障でエンジン回転数が勝手に上がる症状があります。
アクセルを踏んでないのに回転数が上がるのでアクセルが故障したと思ってしまう方も多いようです。
このような症状が発生した車両は「H24 トヨタ ハリアー ACU30 7万km」です。
調べるとISCバルブという部品が故障して回転数が高いままになっていました。
※回転数が低くてエンストする場合は「アイドリング不調はISCバルブが原因」ページを参考にして下さい。
エンジン回転数が下がらない時の各センサーの数値と正常時の数値を解説しますので、比較してISCバルブ故障の判断材料にして下さい。
目次
ISCバルブとは
アイドル スピード コントロール バルブ と言います。
長いので略してアイエスシーバルブとも呼ばれています。
インマニの手前の空気の通り道に装着されていいます。
多くの車がスロットルバルブの横にISCバルブが付いてセットになっていますが、最近ではスロットルバルブ自体がISCバルブの役目を補っている車が多く、ISCバルブがなくなってきています。
ISCバルブの仕組みと役割
上は整備マニュアルの1部です。スロットルバルブの横にISCバルブがついていますが、このISCバルブの開度によってアイドリング回転数が変化させています。
回転数が下がるとエンジンは不安定になります。回転数が上がるとエンジンも安定しますが上げすぎると燃料消費も振動も大きくなるので、どの車もエンジンが安定する最低の回転数を目標にしています。
現在必要な空気量=現在必要なエンジン回転数
エンジンは内部でガソリンが燃焼した圧力でピストンを動かし、縦運動を回転運動に変えて回しています。
その回転の元となる燃焼は、ガソリンの気化です。
ガソリンは液体では燃焼せずに気化された時点で燃焼します。
暖気されたエンジンの内部は熱によってガソリン気化が早く進むので、ガソリンを綺麗に燃焼させるにはエンジンが暖気されている必要があります。
逆に冷えたエンジンでは気化時間が遅いのでインマニやバルブにガソリンが液体状で付着し、カーボンとして蓄積されてしまうので適量のガソリン量にはならず、無駄な燃料消費になり汚れも発生し、尚且つエンジン回転数が安定しません。
下の図の14番がインジェクタといってガソリン噴射装置です。エンジンが温まってないと、ここから出たガソリンの1部が気化せずに壁に付着してしまいます。
エンジン回転数を安定させるには暖気が一番ですが、エンジンのかけ始めは必ず冷えている状態です。
そこで、冷間時は吸入空気量を増やして吸気圧力でガソリンの壁面付着を減少させてガソリンと空気を大量に送り込みエンジン回転数を上昇させます。
吸入空気量を増やす役割がISCバルブ。
上の図の12番がISCバルブです。8番がスロットルバルブですが、アクセルを踏んでいない時8番は全閉しています。
その時は12番のISCバルブが開いて、空気はそこを通過してエンジンに向かいます。下図参照。
このようにISCバルブはアクセルを踏んでいないアイドリング状態の空気量を増減させてエンジン回転数を調整しています。
なお、スロットルバルブを開いて回転数を上げる時は、ISCバルブも少しだけ開くのでISC流量も少しだけ増えます。
エンジン回転数が上がる故障を診断する数値
上記各センサーの解説は「吸入空気量を計算してエンジン不調の原因」ページをご覧ください。
比較表
項目 | 正常時 | 異常時 |
回転数 | 651rpm | 3040prpm |
エンジン負荷値 | 22.3% | 20.3% |
吸入空気量 | 2.54g/s | 11.79g/s |
スロットル開度 | 0 | 0 |
ISC流量 | 1.46L/s | 0.88L/s |
ISCデューティ比 | 31.2% | 26.9% |
アイドル安定化進角 |
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表の上から説明していきます。
回転数が上がってしまう故障なのでエンジン回転数は高いです。
エンジン負荷値でわかる事
エンジン負荷値は他の車ではインテークマニホールド圧力と呼ばれています。
エンジン不調がある時は回転数を上げると負荷値が下がる傾向がみられますので、この車は異常があると判断できます。下グラフ参照。
吸入空気量でわかる事【比較グラフ】
吸入空気量が大きく違いますが、これだけ回転数を上げるにはこれだけの吸入空気も必要になりるので、吸入空気量を測定しているエアフローセンサーは正常だと判断できます。
回転数を3000rpmまで上げるにはスロットルバルブを開かなければならなりませんが、この車のスロットル開度は「0」です。
最低でも10%以上は開かなければ回転数がここまで上がりません。
ISC流量でわかる事【比較グラフ】
エンジン回転数が上がっているのにISC流量が大幅に下がっています。下のグラフ参照。
この状態はISCバルブ以外から吸気している(エアー吸い込み故障)事も考えられますが、
- 吸入空気量とエンジン回転数が合っている
- スロットルバルブは全閉
この2つの結果からISCバルブの開度の数値がズレていると判断できます。
ISCデューティ比でわかる事
ISCバルブを動かすモーターはデューティ比制御です。
デューティ比は電圧をかける時間の割合ですが、デューティ比が大きければ、電圧をかけている時間が長いので、モーターが多く動き、その為、ISCバルブの開度も大きくなります。
今回は正常の時より回転数が高い時の方がデューティ比が小さいです。
これはエンジンが吸入空気量を減らしている事を示しています。
しかし、実際は吸入空気量が多いです。
この結果からもISCバルブが正常に動いていない事がわかります。
アイドル安定化進角でわかる事
アイドル安定化進角は各気筒のピストンスピードの遅れを判断できます。
エンジン不調時に、どの気筒に不具合が発生しているか判断する1つの基準になります。
4°以上ですとピストンスピードが遅れているので失火を疑います。
今回は異常時は全部0°で、正常時に1番気筒と2番気筒が2°と3°になっていましたが、これは回転数が低いので安定させるために進角させただけなので、許容範囲内です。
このデータは回転数が高くなるだけで「故障しているのかどうか?」が判らなくなるいい例だと思います。
ISCバルブ故障の特徴
今回のデータをまとめます。
- ISC流量が異常なほど少ない。しかし、
- デューティ比を見るとISC流量を減らしている。
- 以上2つが事実なのに吸入空気量が多く、
- 実際にエンジン回転数は高いが、
- スロットルバルブは全閉
このことから分かる事は、本当はISC流量が多く、吸入空気量も増えて回転数が高くなっている。
この車は
「ISCバルブが実際に開いているので吸入空気量を減らす為にISCデューティ比を少なくし、ISCバルブは閉じた」
と勘違いしている。
実際は
「ISCバルブが開いたまま固着しているので、吸入空気量が多くなり、空気量に伴って回転数もあがっている。空気を減らして回転を下げるためにISCデューティ比を少なくしてISCバルブを閉じようとしている。デューティ比を元にコンピューターが計算するとISC流量が少なく判定されるが、実際は何も変わっていない。」
といった結果になります。
このような故障はまずISCバルブを洗浄し、それでも直らなければISCバルブを交換するといった流れになりますが、ISCバルブは高いので、故障診断は慎重に行って下さい。