イグニッションコイルのリーク故障を探すグラフ【ISC,吸入空気,点火信号】

エンジンのよくある故障の1つにイグニッションコイルのリークがあります。

内部のコイルや抵抗が異常数値になると故障コードが出るので故障診断が楽になりますが、リークの場合、故障コードを検出しない事もあるので目視の点検が主になります。

 

下の画像のようにリークしていると焦げているのが特徴ですが、目視では汚れなどの付着で確認できない場合があるので正確ではありません。

NV200

ここでは「トヨタ アクア NHP10」を使ってイグニッションコイルを引き抜き、故意にリーク状態を作り、故障診断の役にたつデータが得られるかどうか調べました。

 

数値データやオシロスコープ波形など気になる部分だけでも参考に見て下さい。

 

 

イグニッションコイルとは

イグニッションコイルは点火装置です。

エンジンの各シリンダーに1本使っており、4気筒エンジンの場合、4本使用しています。

 

通常、多くの車はエンジンの真上についていますが、スバルの水平対向エンジンでは横についています。

エンジン燃焼室内を点火させる部品なのでエンジン上部のカムシャフト付近についているのが一般的です。

 

 

イグニッションコイルの役割

エンジンは燃料(ガソリン)と空気の混合をスパークプラグで点火させて動きます。

十分な点火を得るには高電圧が必要になり、その高電圧を作る装置がイグニッションコイルになります。

上の画像はイグニッションコイルとスパークプラグをエンジンから抜き取った所。

黄色に光っているのがスパークプラグの火花。上の黒い筒状の部品がイグニッションコイル。

 

 

イグニッションコイルの仕組み

イグニッションコイルはスパークプラグに高電圧を発生させるためにイグナイタを内蔵してコイルの電流をON,OFFして磁場を変化させ逆起電力を高めています。

 

高電圧発生の仕組み

1次コイルに電圧を加え中央の鉄芯に磁界を作っています。

点火時期になるとコンピューター(ECU)からトランジスタのベース電流をカットします。

 

1次コイル電流がなくなると自己誘導作用によって1次コイルに約500Vの電圧が発生します。

2次コイルはコイルの巻数も太さも1次コイルより大きいのでより高い誘起電圧が発生し、約3万Vにもなります。

V=N×(ΔΦ/ΔT) 
  • V 誘起電力
  • N コイル巻数
  • Φ 磁束
  • T 時間

以上の式になりますので、コイル巻数と磁束が多ければ誘導起電力も大きくなります。

 

誘起させた高電圧をスパークプラグにかけると火花が飛びガソリンに着火します。

下記イラストのようなイメージです。

ガソリンを着火させるには強い火花が必要になるのでイグニッションコイルは重要です。

また、着火はエンジンのピストンが上に来て、吸気と排気のバルブが閉じてガソリンと空気が充満しているところに点火させます。

 

点火時期が正しくなければ着火しないので、エンジン回転数、クランクポジションセンサ、スロットルポジションセンサなどの信号を元に点火時期を決定します。

また、ノックセンサも使ってノッキングを抑える為に点火時期を遅くするなど点火時期も制御されています。

 

イグニッションコイルは断線やショートで故障コードを検出しますが、リークによる失火では失火検出しか出力しません。

コイルの異常までは判断できませんので、故障を判断するためにリークした時の各センサーの数値を測定ました。

 

 

リーク異常の各センサー数値

上記各センサーの解説は「吸入空気量を計算してエンジン不調の原因」ページをご覧ください。

 

 

インマニ圧力 実測値
正常時
1000rpm2500rpm
25kPs32kPs
リーク時
1000rpm2500rpm
30kPs28kPs

リーク時は正常時より5kPs増えています。

 

 

吸入空気量 実測値
正常時
1000rpm2500rpm
2.01g/s5.53g/s
リーク時
1000rpm2500rpm
2.01g/s6.23g/s

アイドリングではリーク時も正常時も同じでした。リーク時に回転数を上げるには正常時よりも吸入空気量を増やす必要があるようです。

 

 

ISC流量 実測値
正常時
1000rpm2500rpm
1.65L/s1.87L/s
リーク時
1000rpm2500rpm
1.68L/s5.00L/s

アイドリング回転(1000rpm)時はほぼ変化はありませんが、失火によってアクセルを踏んでも回転数が上がらないため、2500rpmの時はISCバルブが大きく開いてISC流量が大幅に増えています。

 

 

A/Fセンサ電圧 実測値
正常時
1000rpm2500rpm
3.317V3.293v
リーク時
1000rpm2500rpm
3.307V3.205V

リーク時も理論空燃比の範囲内ですが、下のグラフを見るとリーク時は若干リッチ側になっています。

 

 

燃料補正量 実測値
正常時
1000rpm2500rpm
7.03%8.593%
リーク時
1000rpm2500rpm
19.53%19.53%

20%以上はリーン状態、20%未満はリッチ状態ですが、基本的に問題のないエンジンですと燃料補正は10%以下になるので、10%を超えた場合はリッチ方向に作用していると思ってください。

 

 

点火系異常と吸入空気系異常の特徴グラフ

上記データで下記4つがわかりました。

  1. インマニ圧力が高く回転数を上げると圧力が下がる。
  2. ISC流量を多くしないと回転数が上がらない。
  3. A/Fセンサーは少しリッチと判断。
  4. 燃料補正量では回転数に関係なく燃料を濃くしている。※

ISC流量が多く、吸入空気量も比例して多いのに、リッチなっているのは、吸入空気量に対して強制的に燃料補正量を増やしているからです。

燃料補正量の数値は異常個所を探す目的だけでなく、エンジンに異常が発生しているかどうかにも使えます。

 

インマニ圧力がアイドリングで高いのは失火による吸気力不足によるものです。

回転数を上げると気筒別のピストンパワーバランスの誤差が減るので吸気力が通常に近づきます。

 

これらの数値を見ると燃料系統と吸入空気系統に異常はないと考えられます。

エンジンは空気、燃料、点火3つのバランスが大事ですが、以上のことから、残りの点火に異常があることが判断できます。

 

特にISC流量と吸入空気量が多いのにA/Fセンサーがリッチになる時点で点火せずにガソリンが余ってる状態だと考えます。次のグラフをご覧下さい。

 

 

グラフ ISC流量が高くなる

グラフ1:エンジン不調時のISC流量比較

 

グラフ1は下記3つの状態をグラフにしました。

  1. IGコイル異常時
  2. エアー漏れ異常時
  3. 正常時

異常時は回転数を2500rpmに上げるとどちらも大幅に上昇しています。

特徴 エアー漏れの方がIGコイル異常時よりISC流量が高くなっています。(5.00g/s以上)

次は吸入空気量をご覧下さい。

 

 

グラフ 吸入空気量も高くなる

グラフ2:エンジン不調時の吸入空気量比較

 

グラフ2も下記3つの状態をグラフにしました。

  1. IGコイル異常時
  2. エアー漏れ異常時
  3. 正常時

IGコイル異常時に回転数を上げると吸入空気量は正常時より0.7g/s増えています。

逆にエアー漏れ異常時は全体的に正常時より吸入空気量が少なくなっています。

特徴 吸入空気量が少ないとエアー漏れ故障。吸入空気量が2500rpm時で高いとIGコイル異常(6.00g/s以上)

 

 

点火信号電圧で異常を判断する

先ほどの特徴はイグニッションコイルが完全にリークしている時の数値です。

イグニッションコイルの実際のリーク故障は不安定で、時々リークするような故障もあります。

 

そういった場合は先ほどのデータでは不完全な診断になるので、イグニッションコイルの信号電圧も見る必要があります。

確認する電圧
  1. 点火信号電圧(IGT1)
  2. 点火確認信号電圧(IGF1)

下の回路図のIGT1とIGF1にオシロスコープを繋いで測定します。

IGT1はイグナイタをON、OFFさせます。IGF1はコイルに電圧が発生すると確認信号電圧がかかります。

 

正常時とリークしている2つの波形を測定しました。

  • 黄色波形:点火信号電圧
  • 青色波形:点火確認信号電圧
正常時

リーク時

正常時は点火信号電圧(黄色)が発生すると同時に確認信号電圧(青色)も発生しています。

確認信号電圧の波形(青色)がもう1つできていますが、IGF線は全部のIGコイルと繋がっているので、等間隔に他のIGコイルの波形も拾って表示されていれば正常です。

 

リーク時はスパークプラグで点火しないため、逆起電力の影響で点火信号電圧がマイナス側に発生しています。

 

異常時も正常時も点火確認信号電圧は同じなので、リークではコイル異常の故障コードは検出されません。

点火信号電圧の波形でリークを判断します。

 

完全にリークしてしまうと放電するので正常時と波形は同じになります。

この波形は主に「故障しているかわからない程度の微妙な失火」を判断するのにとても役にたちます。

 

ここでは実際に故障を作ってISC流量、吸入空気量、信号電圧波形を比較しました。エンジン不調の時にこのデータを参考にして、故障診断の参考にして下さい。

 

 

 

よくある質問

 

イグニッションコイルが壊れる原因は?

使用中のエンジンオイルは燃焼室を潤滑しているためガソリンも含みます。

その為、エンジンオイル漏れなどでオイルが付着すると、高温になります。

表面も劣化するので亀裂が発生し、亀裂から高電圧がリークします。

リークすると先ほど解説したようにイグニッションコイル内部のイグナイタに逆起電力発生し、トランジスタに負担をかけ最終的には故障します。

ガソリンを含んだエンジンオイルはパッキンを劣化させるので、オイル交換を定期的に行うことで、間接的にイグニッションコイルの故障も予防できます。

 

 

イグニッションコイルの故障の症状は?

リーク故障も内部故障も症状は同じで、アイドリングでエンジンが大きく揺れます。

アクセルを踏んでも最初はなかなか走りませんが、徐々にスピードがでてきて、ある程度まで加速すると普通に走ります。

すぐにスピードが出ないので息継ぎとも言われています。なお、排気ガスが臭くなる車もあります。

 

 

イグニッションコイルの寿命は?

通常、10年10万kmが寿命ですが、先ほど解説したようにオイル漏れやスパークプラグが劣化していると逆起電力でイグナイタに負担がかかり、寿命が短くなります。

 

 

イグニッションコイルの交換費用は?

イグニッションコイル8,000円前後
交換工賃2,000円~

イグニッションコイルの値段はどれも同じですが、工賃は車によって大きく変わります。

交換が簡単な軽自動車でしたら2,000円程度ですが、ニッサンのセレナやノートなどのエンジンはインテークマニホールドを外さなければ交換出来ないので、交換は1万円前後になります。

 

 

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