エンジンのスタートスイッチを押すと正常なら「キュルキュルキュル」といったセルモーターが回る音がします。
今回修理するMRワゴンはスタートスイッチを押すと「カチ」という音がするだけで、エンジンがかかりません。
最初にバッテリーを疑って確認しましたが電圧は正常。念のためジャンピングもしてみましたが「カチ」というだけでセルモーターが回る気配はありません。
H23 MF33S 6万km
このような症状があった事をガソリンスタンドに相談するとバッテリーの交換をすすめられますが、無駄な出費になる可能性があるので、しっかり検査することをお勧めします。
安い車検店は人気を集めるために本当に必要な部品しか交換しないのでバッテリーチェックも安心して任せられます。もうすぐ車検の方は是非「車検人気ランキング」を参考にして下さい。
このページではMRワゴンのエンジンのかからない原因と点検方法、修理費用をご紹介します。ニッサンのモコも同じ故障が発生するのでこのページは参考になると思います。
目次
MRワゴンのセルが回らない故障3つ
セルが回らないとは、セルモーターが回らないという事です。セルが回らない主な原因を3つご紹介します。
1.バッテリー上がり
バッテリーが完全に上がっていればセルはまわりませんが、バッテリーが弱い状態だとゆっくり回ります。
ゆっくり回ると回転する力が足りずエンジンがかからない事があります。
エンジンがかかるとオルタネーターで充電されるのでバッテリーが回復しますが、弱っているバッテリーは容量が少なくなっているのでエアコンやライトなど多くの電気を使うと完全に上がってしまいエンジンスタートスイッチを押してもセルは回らなくなります。
バッテリー上がりの参考ページ: バッテリー劣化の仕組み
2.リモコンキーの電池切れ
スタートスイッチを押してもメーターの電気もつかないので、バッテリー上がりと勘違いする人も多いです。
そもそも電池がないとドアロックも解除されないので、ドアを開ける事ができません。
そういった場合は内部キーでドアを開けるが、キーでドアを開けると約10秒後に警報がなります。
対処法はドアを開けた後、素早くブレーキを強く踏みながらリモコンキーをスタートスイッチに押し当てるとエンジンがかかり、警報は解除されます。
3.セルモーターの故障
セルモーターが故障するとバッテリー上がりと似たような症状がおこります。
メーターの電気はつくが、エンジンがかからないといった症状はセルモーターの故障の可能性が高いです。
しかしメーターの電気は少ない電流でもつきますがセルを回すには大電流が必要で、バッテリーも完全に上がっていなければ「電気はつくがセルは回らない」といったバッテリー上がりと同じ現象がおきます。
電圧を測定できるテスターを持っていればバッテリーの簡易点検はできます。
12.4V以上あればセルは回ります。しかし弱っているとセルを回す時の電圧降下が大きくなり、かからない事もあるので電圧チェックはそこまで正確な診断はできません。
他メーカーのセルモーターが回らない症状「セルモーターが回らない原因」も参考にして下さい。
MRワゴンのエンジンがかからない理由
今回のMRワゴンはセルが回りませんが、現在わかっている2つの事である程度推測ができます。
2つのポイント- バッテリーは正常
- スタートスイッチを押すと「カチ」と音がする
この2つの現象で予想できるのはセルモーターが回れないといった故障。
そこでセルモーターが回らない原因を調べます。
セルモーターが回らない原因
- セルモーターのモーター駆動側の電源回路の異常
- セルモーターの故障
- エンジンの焼き付き
「カチ」と音が出るのがとても重要です。
この音が出ているということはスタートスイッチは反応しているし、セルモーターのピニオンシャフトを動かすモーターまでは正常と判断できます。
3番のエンジンの焼き付きはエンジンがかからなくなる前からアイドリングが不安定になったり、エンジンがかかっている間に大きな異音が発生したりなど、明らかな不具合があるはずです。
それでも念のためにエンジンオイルの量を確認して、フィラーキャップの中を見てスラッジでドロドロになていないか簡単にチェックします。
問題がなければセルモーターの電源回路系の点検をしていきます。
セルモーターを回す電気は来ているか?
セルモーターの電源は2つ。1つはセルモーターを回す電源。
セルモーターはエンジンを回すため、高い電圧が必要です。
B端子を測定すると12.46V。セルモーターを回すには十分な電圧です。
もう1つはピニオンシャフトを動かす電源。下の画像はセルモーターからピニオンを外したものです。左がピニオン。右がモーター。
エンジンをかけるには最初にセルモーターで回転させなければエンジンはかかりません。
エンジンをかける方法はセルモーターを使ってエンジンについている歯車を回して直接回転させます。
そのため、セルモーターの歯車はエンジンがかかった後はエンジンと切り離さないと、セルモーターもエンジンと一緒に回り続けてしまいます。
そうなるとセルモーターは必要のないときも回り続けるので早くに故障し、エンジンも必要のない部品を回すので負担になります。
セルモーターの動き
エンジンをかける時だけセルモーターとエンジンを繋ぐのにはセルモーターの歯車を伸ばしてエンジンと接合し、エンジンをかけた後は縮めて切り離します。
下の画像はセルモーターのピニオンシャフトが伸びた状態と縮めた状態です。伸びている状態は歯車が出ているので、この状態で回転させればエンジンの歯車を回すことができるのでエンジンが回転します。
「カチ」といった音はしているのでピニオンシャフトは正常に動いています。スタートスイッチを押して下の画像のように伸び縮みすれば正常です。
ピニオンは動いているので後はギヤを回すとセルモーターが回るはずです。先ほどの検査でセルモーターに12.46V来ていたので、この電圧で回らないならセルモーターの中で何かしらの故障が発生していると考えられます。
先ほどのB端子電圧が12.46Vきているので、後はスタートスイッチを押したときS端子に12V以上発生すればセルモーターまでの回路は正常となります。
仕組みはS端子に12Vの電圧をかけるとコイルに電流が流れ磁力が発生し、横にあるマグネットスイッチがつながります。
スイッチがつながるとB端子の電流がモーターに流れてセルモーターが回転します。
SとB端子の両方とも電圧が正常なら今回はセルモーター内部の故障が考えられます。
セルモーターの調子が悪いときはセルモーターを叩くと回るといったことを聞いたことがありますが、中で何が起きているのでしょうか。
セルモーターを叩くとエンジンがかかる仕組み
実際にこのMRワゴンもセルモーターを叩くとセルモーターが回りました。
内部を見てみると、回転させるにはブラシ~アマチュアコイルに電流を流し、コイルの大きい方に磁界を発生させ、ケースの磁石でコイルを反発と引き寄せを繰り返して回転させています。
この中で接触しているのはブラシとアーマチュアコイル。
下の画像はセルモーターを分解したものです。筒の中に見えるのがアーマチュアコイル。筒はヨークといい内側に磁石が張り付いています。その下はブラシ。
セルモーターの故障は主にブラシと呼ばれるコイルに通電させて磁力を発生させるための部品の摩耗が原因です。
セルモーターはエンジンをかける時にしか回転しませんが、ブラシにスプリングがついておりアーマチュアが回転しても常に一定の力で接触して電流を流す仕組みになっています。
何度も回転させればブラシは削れて減ってきます。
ブラシの摩耗が原因でセルが回らなくなる
減ってきたブラシはアーマチュアとの間に隙間ができてしまいます。
この画像ではアーマチュアの左のコイルは小さくブラシと接触しています。右側のコイルは磁界を発生させてヨークの磁石と反応します。下はヨークの中身。
ブラシは摩耗すると下のように削れて減ります。そして接点が離れ電流を流せなくなり、コイルに磁界を発生させないので、セルモーターは回りません。
叩くと回るのはアーマチュアが揺れて摩耗して短くなったブラシと接触するためです。
ブラシと接触しているのはアーマチュアコイル(コイル全体を示す)ですが、小さい方はコミュテータと呼びます。
次はセルモーターの交換方法と点検方法を紹介します。
セルモーターの交換方法
セルモーターの外し方
外すにはバッテリーのマイナス端子を外してから行って下さい。
セルモーターは下の画像の2つの穴にボルトを差し込み、エンジンと固定されています。
14のサイズのソケットを使って2本を外し、セルモーター中央のB端子のナットとS端子のカプラーを外すだけです。
狭くて手が入らないので作業は大変だが右前のタイヤを外すだけで工夫すれば「手も工具もスムーズに入る」ので作業がとても楽になります。
コツはベルト側から右手を入れ、フレームの間の下から左手を入れる事
セルモーターの単体点検方法
叩けば回る時はブラシの点検だけでいいと思いますが、セルモーターの故障で多い、プランジャー、ブラシ、アマチュアコイルの3つを点検します。
以下は簡易的な点検なので時間はかかりません。
ブラシの測定
今回の故障の原因であるブラシ磨耗は長さを測定して判断します。
長さ限度値 | 7.6mm |
測定値 | 6.9mm |
結果 | 異常 |
プランジャーの測定
プランジャーの故障はギヤが噛み合わないので空回りするような異音がでるか無音で回らない症状になる事が多いです。
今回の故障と症状が違いますが点検方法だけでもご紹介します。
抵抗値プランジャーボディ~S端子
基準値 | 導通あり |
測定値 | 導通あり |
結果 | 正常 |
アマチュアコイル
叩けば回るのならコイルの断線はないが、抵抗とブラシの接触箇所だけ点検します。
外形限度値 | 24.0mm |
測定値 | 25.2mm |
結果 | 正常 |
抵抗値
コミューターセグメント~アマチュアコアの導通テスト
基準値 | 無限大 |
測定値 | 無限大 |
結果 | 正常 |
コミューターセグメント間の導通テスト
基準値 | 導通あり |
測定値 | 導通あり |
結果 | 正常 |
以上の点検でセルが回らない原因がブラシの磨耗という事がわかりました。
セルモーターの交換費用
MRワゴンは中の部品交換ができますが部品代は高いです。
例えば、アーマチュアコイルは20000円。ブラシセットが1500円。この2つを交換するだけで部品代だけで21500円がかかってしまいます。
それなら「消耗箇所を交換済みのリビルトパーツ」を使った方が割安で安心です。
セルモーターリビルト | 20000円 |
工賃 | 8000円 |
合計 | 28000円 |
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