初期型アクアのスペック表を元にエンジン性能曲線図(1NZ-FXE)を作成し、正味燃料消費率(BSFC)と燃費(km/L)をスキャンツールのデーターモニターの数値で計算する方法を解説します。
アクアは時速50km以下ですと頻繁にEV走行になっしまうので、燃費はカタログ通りになると思います。
ここではエンジン走行に切り替わる高めの速度での燃費に焦点をあてました。
エンジン燃費を良くするには軽いアクセルの踏み込みで、一定速度で走るのが最適だと思っていたので下の条件で燃費が最も良い運転方法と速度を調べてみました。
- 抵抗のない平坦な道路
- 微少アクセル踏み(開度10%以下)
- 低回転数(1500rpm以下)
この3つを前提にして時速60km、時速70km、時速80kmの正味燃料消費率(BSFC)を求めた所、エンジン負荷が高く回転数も高い時速80km時の燃費が最も良い事がわかりました。
直感とは逆の結果です。
少燃料でなるべく力を抑えて走行するより、多燃料で力を十分に発揮した方が無駄が減るようです。
実際に燃費を算出するまでのデーター取得や計算を解説いたしますので、燃料の良い運転方法を調べて見て下さい。
目次
BSFC燃料消費率の自動計算
次項でこの計算フォームの入力方法、グラフの見方、数値の入力方法、計算式を解説します。
BSFCと燃費の計算式を解説
計算で使う必要なデータ
初期型H24~のトヨタのアクアNHP10を例にして解説します。
アクアは時速50km以下ではEVモードになってしまう事が多いので、時速60km以上で測定します。
エンジン性能曲線図は一般公開されているカタログで作れますが、BSFCの計算はスキャンツールが必要です。
ここのデータはバンザイ製のスキャンツールMST-7Rのデータモニターで取得します。
データ例:アクア実車データ
取得する項目は
- 車速km/h
- エンジン回転数rpm
- エンジン負荷%
- アクセル開度%
- 燃料噴射量10回分ml
※エンジン負荷は計算負荷値や計算ロード値とも書かれている場合があります。
この5つです。エンジン負荷がデータモニターにない場合は排気量、吸入空気量、大気圧でおおよそのエンジン負荷を計算することができます。
加速中や減速中ですと、同じ回転数、速度でも燃料噴射量が変わるので、一定のアクセルワークを判断するためにエンジン負荷とアクセル開度も同時に記録します。
アクセル開度は加速や減速にならない、5%~10%の間で一定の速度になるように調整します。
下は実際に走行して約1秒おきに連続して取得したデータの1つです。
上の計算フォームでは、このデータを初期値にセットして計算してあります。
| 車速 | 57km |
| 回転数 | 1496rpm |
| エンジン負荷 | 68% |
| アクセル開度 | 5.8% |
| 燃料10回噴射量 | 0.150ml |
このデータで時速57km一定走行のBSFCを計算します。
計算フォームで燃費計算する手順
最初に下記スペック表で「燃費・性能・詳細スペック」を見て最高出力と最大トルクを上記フォームに入力してエンジン性能曲線図を作成します。
参考:グーネットスペック表(ここでは初期アクア)
次は時速57km時点のエンジン回転数を上の②に入力して最大トルクを出します。
エンジン性能曲線図はフルスロットル(エンジン負荷100%)のデータで作成しているので、エンジン負荷68%を④に入力して負荷適応トルクを算出します。
次に算出した負荷適応トルクの時の出力を以下の式で計算します。
この式に下の式を代入します。
$$ P = \frac{54(N・m)×1496(rpm)}{9549} = 8.5kW$$
燃料消費量をこの出力で割った数値がBSFCなので、後は燃料消費量を計算します。
1気筒あたりの噴射回数(1時間あたり)は
$$ 1496rpm × \frac{1}{2}(回/回転数)×60分/h = 44880回/h/cyl $$
1気筒 10回噴射で 0.150 mL なので、エンジン全体の 1時間あたりの流量は
$$ Ctotal(L/h)= \frac{0.150mL}{10回}×44880回/h/cyl×4気筒×\frac{1}{1000}=2.693L/h$$
燃料質量 (F) の計算
$$ F \ (\text{g/h}) = C_{total} \ (\text{L/h}) \times \rho_{fuel} \ (\text{g/L})$$
$$F = 2.693 \ \text{L/h} \times 750 \ \text{g/L} \approx **2019.8 \ \text{g/h}**$$
BSFC の計算
$$\text{BSFC} = \frac{F}{P} = \frac{2019.8 \ \text{g/h}}{8.5\ \text{kW}} \approx **237.6 \ \text{g/kW} \cdot \text{h}**$$
| エンジン種類 | BSFCの最良値の目安 |
| 一般的なガソリンエンジン | 250 ~300 g/kWh |
| 最新の高効率ガソリンエンジン | 230 ~240 g/kWh |
この237.6g/hkWhは高効率のエンジンのようですが、どの程度なのか判断が難しいので、一般的に燃費の良し悪しを判断するリッター当たりの走行距離を出してみます。
燃費を計算する手順
走行速度と 1時間あたりの燃料消費量(体積)から燃費を計算します。
燃費の計算式は以下になります。
$$\text{燃費} \ (\text{km/L}) = \frac{\text{走行速度} \ (V) \ [\text{km/h}]}{\text{燃料消費量} \ (C_{total}) \ [\text{L/h}]}$$
速度と消費量を代入すると
$$\text{燃費} \ (\text{km/L}) = \frac{57 \ \text{km/h}}{2.693\ \text{L/h}} \approx **21.2 \ \text{km/L}**$$
21.2km/Lです。
ハイブリッドのアクアですが、ガソリンだけでも、これだけ良い燃費がでました。
ですので、BSFCが237.76g/kW•hもとても燃費の良い数値ということになります。
しかし、これは1回だけのデータです。
速度を57kmに保つ為にはアクセルをもう少し踏み込む時もあります。
次は色々な運転パターンのBSFCを調べてみます。
BSFCマップで燃費の良い速度を検証
大量のデータを集めて計算するとより現実的な燃費が出せますが、とりあえず今回は時速70kmと時速80kmのそれぞれ1回の記録でBSFCと燃費の計算をしてみます。
| 57km/h | 72km/h | 81km/h |
| 1496rpm | 1105rpm | 1172rpm |
| 負荷68% | 負荷88% | 負荷87% |
| アクセル5% | アクセル9% | アクセル8% |
| 燃料0.15ml | 燃料0.212ml | 燃料0.205ml |
| BSFC 237.6g/kWh | BSFC 310g/kWh | BSFC 292g/kWh |
| 21.2km/L | 25.6km/L | 28.1km/L |
時速81kmが一番燃費が良かったのですが、これは一定走行の燃費です。
時速81kmになるには時速60km、時速70km、時速80kmを経過しています。
加速途中や信号などの走行停止時間まで考えると時速80kmがいいとも限りませんが、時速60km、70kmを一定走行するなら時速80kmで一定走行するのがお勧めです。
36パターンの走行データでBSFCマップを作りましたので参考にして下さい。
アクア BSFC実測マップ
※横軸は回転数、縦軸は燃費効率(低いほど良い)
※点をタップすると詳細データが表示されます
高負荷の場合、回転数が低い時だけはBSFC値が高いですが、1200rpmではかなり低いので低燃費になっています。
中負荷では全体的に高負荷よりも燃費が悪くなっています。
今後もアクアのデータを定期的に追加していくのでアクアの燃費が気になる方は参考にして下さい。
アクア BSFCヒートマップ(実測ベース)
濃い緑色ほど効率が良い(スイートスポット)
※アクセルの踏み込み量がエンジン負荷
※踏み込み量 50%~60%は微少、60%~80%少 80%~100%多
アクアの走行テストをしたところ1500rpmでエンジン負荷62%が最高のBSFCです。
一定走行中、加速中、減速中が判断できるように、その瞬間の燃費も表示しています。
燃費が悪い点は加速中、燃費が良い点は減速中、燃費が中間の場合(20~30km/L)の点は一定走行だと思って下さい。
こちらもアクアのデータを定期的に追加していくのでアクアの燃費が気になる方は参考にして下さい。
下のグラフはシステム性能曲線ですが、駆動力が下がっても時速60kmまでは出力は増加しています。
出力は仕事率なので、駆動力が少なくても十分良い仕事(燃費良好)をしているのがわかります。
