走行中、気が付いたらオレンジ色をしたエンジン警告灯が点灯していた。
エンジン警告灯が点灯してから、何となく力不足を感じるスペーシア。
平成29年 スズキ スペーシア MK42S 1万km
スズキは雨でフロントガラスに付いているカメラが認識できず自動ブレーキ等のシステムを一時停止する警告灯が付く場合がよくある。下の画像は整備マニュアルから抜粋したのもだが雨が激しい日はこれらの警告灯が点灯するので驚いてしまう。
今回はこの警告灯ではなく、エンジン警告灯。
その他は特に異常を感じないがエンジン警告灯が付いているのに乗り続けると重大な故障に繋がるので早急に修理する。
今回の故障診断の解説はスズキ車だけではなく、トヨタやニッサンでも同じようなセンサーを使用している車なら参考になるので、整備士の方は是非見てほしい。整備士以外の方は最後のまとめを見ていただけると修理費用や後々の不具合などがわかるので参考にしてほしい。
dutyal research motor team report
目次
スズキのエンジン警告灯がオレンジ点灯の原因
エンジン警告灯は車に付いたセンサーが異常を感知すると運転者に知らせるためにメーター内にオレンジ色のエンジン警告灯を点灯させる。
エンジンが原因の場合もあればミッションやブレーキ、安全装置などが異常でもエンジン警告灯が点灯することがある。
そういったエンジン以外が関係しているとエンジン警告灯とは別に他の警告灯も点灯する。
今回はエンジン警告灯だけなのでエンジンに関連するセンサーが異常を発信している。
コンピューター診断機で故障コードを見てみる。
エンジン警告灯はP0102エアフロメータLow異常
診断機を車両と接続してエンジン項目を選択し、故障コードを見てみる。
P0102:エアフロメータ系統Low異常
エアフロメータ系統の異常が出ていた。エアフロメータはエンジンの吸入空気量を計るセンサー。
エアフロが空気量を測る仕組み熱で抵抗が変化する白金熱線を使用して温度計測用の抵抗とヒーターの熱線でブリッジ回路を構成して空気量を測る。空気量が増えると白金熱線が冷やされるので抵抗が変化~電圧変化を空気量に変換している。
吸入空気量によって燃料噴射時間と燃料噴射量を変化させてアイドリングや加速時を安定させる。
上の図はスズキの整備マニュアルを元に空気、ガソリン、燃焼、排気の流れを表している。5番がエアフロメータ。
空気の流れは左から5番のエアフロを通過して8番のスロットルバルブ~13番のプレッシャースイッチが付いているインマニ~14番のインジェクタで燃料と混合しエンジンの燃料室に入る。
ここが故障すると吸入空気量が分からないので燃料噴射量をコントロールする事ができなくなるがフェイルセーフ制御されているので特に車に異常は感じない。
フェイルセーフ制御が働くと、どんな状態でもエンジン回転が安定するように燃料噴射量、点火時期、吸入空気量を調整する。
では次にP0102が故障コードとしてコンピュータが認識する時は車がどんな状態になっているのかを調べて見る。
エアフロメータ異常を検知する仕組み
下の図のようにスペーシアのエアフロメータは吸入空気温度センサと吸入空気量センサがセットになっている。
このセンサの出力電圧が、5秒以上0.16 V以下になるとP0102が故障コードとして残る。下の整備マニュアルを見て欲しい。
1:温度センサ付きエアフロメータ 2:空気量センサ 3:温度センサ 4:コンピュータ
左の1番がエアフロメータと温度センサのセット。4番がコンピュータ。このコンピュータがエンジン警告灯P0102を発信しているが、この2番から出ているA3の信号配線が、5秒以上0.16V以下になったことでエンジン警告灯を点灯させ故障コードにはP0102を残した。
異常検知する電圧サンプル上の図はサンプルだが信号電圧が2秒から7秒まで5秒以上閾値0.16V以下になっているのでエンジン警告灯が点灯してP0102の故障コードが出力される。
A2の配線を見るとコンピュータ内で5Vの電圧がかかっている。この5Vを2番の空気量センサに流し空気量によってA3の信号電圧を変化させる。
ここの電圧を測定すれば
- 配線の故障
- コンピューターの故障
- エアフロメーターの故障
この3つのどれが故障しているかわかる。次は故障探求から少し離れてフェイルセーフ制御の内容を調べてみる。
フェイルセーフ制御の内容を理解していないと間違った診断をしてしまうことがあるのでエンジン警告灯が付いた時は必ずフェイルセーフも確認する。
エンジン警告灯点灯でも走れる理由
吸入空気量と吸気管絶対圧でエア吸い込み点検
現在のアフロメータが感知している吸入空気量を診断機を使って読みとってみる。
吸入空気量 | 0.00 g/sec |
これは吸入空気量が0。空気をエンジンに送ってない事を示しているが、これが本当なら走る事はできず、エンジンも止まってしまうはず。
下図は吸入空気量と電圧の関係を表している。空気量0でも0.9Vが出ている。電圧0.16V以下という事はかなり低い電圧なのでコンピューター内かエアフロメーター内及びA2,A3の配線の断線もしくはショートが考えられる。
もし診断機の数値が本当でエンジンがかかっていられるのならエアフロメータからエンジン燃焼室の間(インマニ)でエアーの吸い込みがなければおかしい。
インマニのエアー圧力を見てみる。
吸気管絶対圧 | 32 kPa |
大気圧 | 100kPa |
吸気管絶対圧はインマニに付いているプレッシャーセンサで測定しているインマニの負圧。大気圧が100 kPaで吸気管絶対圧が32kPaなら差が大きいのでエアーの吸い込みは考えられない。
基準値は以下の通り
完全暖機後アイドル時 | 約25~45 kPa |
60 km/h 走行時 | 約45~65 kPa |
エアーが吸い込むと走行時と同じで吸入空気が増え大気圧に近くなるので少なくても50kPa以上になる。
この吸気管絶対圧が正しくてエンジンがかかっていられるなら実際の吸入空気量は0ではない。
空気量0としてエンジンを回すと理論空燃比を保つために燃料が薄すぎて不調になるが、強制的に制御してエンジンの調子を正常に保っている。それがフェイルセーフ制御。
フェイルセーフ制御でいつまでも走れる
P0102が故障コードに出てエンジン警告灯が点灯すると以下の制御が働く。
フェイルセーフ制御の内容- スロットルバルブ開度とエンジン回転速度から空気量を推定
- アイドリングアップしVVT制御停止。
※VVTはインテークバルブのタイミングを調整して高出力、低燃費にする機能。
この2つの作用でISCバルブの開閉角度を変えたり燃料噴射時間を変えてエンジンが安定していられるようにしている。フェイルセーフ制御でアクチュエータに送る信号が通常と変わってくる事を理解した上で点検していく。
今回のエアフローセンサの警告灯点灯は、以上の制御によって、ほぼ永遠に走り続ける事ができる。
しかし、燃料や空気など微調整ができていないので、マフラー、プラグ、スロットルバルブ、マニホールドなど少しずつダメージを受けていく。
なおガソリンの減りが早いスペーシアは※ガソリンが減るスペーシアの故障も参考にみてほしい。
警告灯点灯で走行する車は正常なエンジンの車と比較すると各部の寿命は短くなるし、車検も通らない。
警告灯が点灯している車の車検をどこに出したらいいのかわからない方は「車検人気ランキング」にある人気店に相談するのがおすすめ。
エアフローメータ系統の点検
スペーシアのエアフロ―メータはエアクリーナーボックスのすぐ横に付いているが奥に入っているのでビス2本を外して見える位置まで出す。回路図を参考に電圧を測定する。
この回路図を見ると3番の温度センサの異常は出ていないので調べる配線はA1.A2.A3の3本になる。
※温度センサは別のエンジン制御に使われる。
C1はアース。温度センサーは異常がないのでアースは正常。A1はエアフロ―センサの電源入力線。ここにはバッテリー電圧12Vがかかっていたので電源及び配線は正常。
A2は空気量を計るセンサの基準電圧の5V。エンジンをかけて、カプラーを5秒間外しA2.C1のエアフロの電圧をはかると約5Vだったのでコンピュータからの安定化電源及び配線は正常。
診断機を見るとカプラーを外した影響で「P0113 吸気温センサ系統High異常」も追加で出力された。
どんな内容か整備マニュアルを見てみる。
P0113 吸気温センサ系統High異常
整備マニュアルでは「吸気温センサ信号回路の電圧が、5秒以上4.90 V以上となった」時にこの故障コードを検出する。と書かれていた。
この回路図の3番が温度センサーでB1が吸気温センサ信号回路。B1はコンピューターから5Vの電圧がかかっている。
断線すれば約5Vの電圧がかかるのでカプラーを外してP0113が表示されるのは温度センサ回路は正常な証拠。
下のグラフはカプラーを外した時の電圧の変化。2秒の所から7秒の所までカプラーを外してある。
異常検知する電圧サンプル※アップ・エッジを5秒以上超えるとエンジン警告灯を点灯させる。ダウン・エッジを5秒以上下回ってもエンジン警告灯を点灯させる。
残るはA3の配線の点検。
上図のような回路を作成し下のグラフのように電圧が変化しなければエアフロ―メータ本体の故障。下の空気量を正確に出すのは難しいので空気を送って少しでも変化すれば正常と考える。
このスペーシアは変化しないのでエアフロ―メータの中のA3回路が断線もしくは短絡している。
最後に部品を交換して診断機で再点検する。
エアフローメータ交換して数値を比較
作業はビス2本外せばできるので簡単。
交換前と交換後のエンジン数値を比較して見る。下の画像は診断機のデータ。当然、吸入空気量は0ではなくなっている。
その他の数値も比較してみた。
エアフローメーター交換前後の数値交換前→交換後 | |
空燃比補正率 | 0.00 %→-4.69 % |
点火時期 | 10.0 °BTDC→5.5 °BTDC |
エンジン負荷 | 25.88 %→30.59 % |
エンジン回転速度 | 1223 rpm→860 rpm |
吸入空気量 | 0.00 g/sec→1.10 g/sec |
VVT差角 バンク1 IN | -0.00 °CA→-0.71 °CA |
目標スロットル開度 | 4.71 %→3.92 % |
※上の数値はスペーシア エンジン警告灯データを参照
エアフローメータの異常で警告灯が点灯するとアイドリングアップさせるために目標スロットル開度を高くし、エンジン回転数を上げている。
VVTも作動させないので、燃費悪化と出力低下がある。
エアフローメータ交換後は回転数も下がりVVTも作動しているので、低燃費で安定した加速もできるようになった。
エンジン警告灯が点灯する原因と修理費用まとめ
平成29年式 型式MK42S 走行10000KM | |
メーカー 車種 | スズキ スペーシア |
症状 | エンジン警告灯 加速不良 |
音 | なし |
臭い | なし |
振動 | なし |
原因 | 水分混入?数日前の大雨で走行中にタイヤまで浸かり水分を吸い込んだ可能性が大きい。 |
作業内容 | 診断機で故障コードを確認して故障探求していく。 |
作業難易度 | [star rating = "3"]難しい 診断機がないと特定できない |
修理代 | エアフロ―メータ15000円、工賃2000円、診断料2500円~ 合計19500円 |
後の支障 | 警告灯点灯したまま長く乗っていると触媒、プラグが劣化。エンジンオイルとISCバルブも汚れる。 |
参考資料&関連ページ |
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