目次
バッテリー上りとサルフェーションの関係を調べる
寿命に差がある理由を調べ最大寿命を模索する
バッテリーは車を始動させる最重要な自動車電源。
自動車は電源スイッチ(イグニッションスイッチ)をONにするとエンジンがかかり、そこで初めて車を動かす事ができるようになります。
その最重要部品の1つである自動車バッテリーですが、当然寿命もあり、突然バッテリー上りを起こすこともあります。
現在のハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)などモーター駆動の自動車ではリチウムイオンバッテリーが主流になっています。
しかし、HV自動車でもエンジン始動用は低コストの従来のバッテリー(鉛蓄電池)を使用していることから鉛蓄電池のバッテリー上りは現在も自動車トラブルの最上位にあります。
始動用の鉛蓄電池がバッテリー上りをすればエンジンはかからないので、とても重要です。
ここでは鉛蓄電池の放電や充電によって変化するバッテリーの数値を化学反応の計算と比較しました。
バッテリー寿命に大きく関係するサルフェーションの増減を調べましたので、車に乗られているユーザーだけではなく、現役のディーラーメカニック、中古車販売店、カー用品店、整備工場の方も各データを参考にして判断してもらえれば幸いです。
バッテリーの寿命は充電と放電に関係するのか
バッテリーの寿命を少しでも長くする
交換時期を正しく判断する
自動車のバッテリーとして長く利用されているのが鉛蓄電池です。
充電可能な二次電池として役立っているバッテリーですが、「充電できなくなる」「放電できなくなる」といった故障がバッテリー上りとして世間に知られています。
自動車バッテリーはヘッドライトやカーナビ、カーエアコンなどを電装品を使用する時に放電します。
放電したバッテリーは容量が減るので、オルタネーターによってバッテリーを充電し容量を回復させています。
充電、放電がバッテリーの寿命に大きく関わる事から、バッテリーの寿命は車の使用方法によって大きな差があると言えます。
そのバッテリーの寿命はオルタネーターの充電によってどれだけ「バッテリーの容量を使わずに電装品を使えたか」によって変わります。
バッテリーの説明書では2年4万kmおきの交換を推奨していますが、乗り方によっては倍近く無交換で乗られる方もいます。
バッテリーの金額は1万円以上します。
安全に最後まで使いきれる方法があれば、自動車維持費削減につながります。
バッテリーの寿命年数、寿命電圧、寿命シグナル
先行研究しているスペシャリスト達が見るバッテリー寿命
自動車バッテリーの寿命について、各メーカー、自動車専門サイトなどの見解をまとめました。
バッテリーの寿命の目安は、2~3年です。 車に乗る頻度や環境により劣化具合が異なるため、場合によっては目安より長い・短いケースがあります。 メーカーや製品により異なりますが、バッテリーの保証期間は、購入日から18か月、または使用から3~6万kmが目安です。2022/02/23 引用:カーセブン
バッテリーの耐用年数は?
寿命とバッテリーあがり|バッテリー基礎講座|古河電池株式会社
バッテリーには寿命があり、使用環境により大きく異なりますが、平均すると2~3 年くらいで寿命となります。 引用:古河電池
バッテリーの寿命の見極め方は?
車のバッテリーの寿命と交換時期の判断方法をプロが解説【初心者 ...
電圧は、通常時が12.5~12.8V、エンジン始動時は13.5~14.5Vが正常値と言われています。 電圧はエンジン始動時にもっとも電力が必要になるので、通常時の電圧消費量が12.5V未満になったら一般的に、バッテリーの寿命と考えて良いでしょう。2022/12/20 引用:jms-car.com
調べた結果では、バッテリーの寿命年数は2年~3年、電圧が測定できる方でしたら電圧でも判断できるといった参考ページがありました。
電圧の測定には市販のバッテリーチェッカーやサーキットテスターを利用します。
上記データをまとめます。
平均寿命 | 2年~3年 |
通常時電圧 | 12.5~12.8V |
始動時の電圧 | 10.50V |
アイドリングの電圧 | 13.5~14.5V |
平均寿命で交換するなら、車検毎に交換することになります。
バッテリーは軽自動車でも1万円近くし、大きめのワンボックスですと2~3万円ほどかかります。
自動車維持費を抑えるためには定期的にバッテリーを測定して限界まで使う必要がありそうです。
各業界の自動車専門家がバッテリーの寿命のシグナルを紹介しているので、まとめてみました。
エンジンがかかりにくい
バッテリーが弱くなってくるとエンジンをかける時のセルモーターの動きが遅くなります。
「キュルキュルキュル」といった音がセルモーターの作動音ですが、バッテリーが弱いと音が遅く、なおかつ、エンジンが始動するまでが長くなります。
「カチカチ」といった音に変わるとバッテリー上がりの可能性が高くエンジンはかかりません。
ライトが暗い
ハロゲンタイプのヘッドライトはバッテリーが弱くなると暗くなる傾向があります。HIDタイプやLEDでは暗くなりません。
バッテリー液が減少
バッテリーの側面を見るとアッパーラインとローラインがあります。
この範囲内にバッテリー液(電解液)がなければなりませんが、バッテリーを使用していると化学反応を起こし、電解液が減少します。
それに加え、電解液内の水も蒸発していくので電解液が減少します。
バッテリー電圧が下がる
これはサーキットテスターを使用してバッテリーのプラス端子とマイナス端子の電圧を測定します。
電圧を測定する事で現在のバッテリー容量がわかります。
電圧13V以上でしたら充電率100%、電圧12.1Vでしたら充電率50%、電圧10.5V以下は充電率0%。
充電率50%以下ではエンジンがからない場合が多いです。
アイドリングストップしない
アイドリングストップ機能がついた自動車ではバッテリーにセンサーが付いています。
バッテリーセンサーはバッテリーの電流、電圧、温度、内部抵抗を検出して基準値以下の場合アイドリングストップ機能を停止するので、作動しなければバッテリーが弱っていると簡単に判断できます。
しかし、バッテリー以外の要因でアイドリングストップがしないこともあるので注意が必要です。
パワーウィンドウの動きが遅い
エンジンを始動してしまうとオルタネーターで充電されてしまうので、バッテリーが弱っている車でもパワーウィンドウは正常に動きます。
バッテリーの状態を見るにはエンジンを始動せずにキーON(メーターランプ点灯状態)でパワーウィンドウ(PW)の動きを見ます。
エンジン始動前のPWの早さとエンジン始動後のPWの早さが明らかに違えばバッテリーが弱いと判断します。
バッテリーの膨らみ
バッテリーは使用していくうちに熱と内部の化学反応によってバッテリーの側面が膨らんできます。
目に見えて変形がわかるならバッテリーは弱っていると考えられます。
端子に白や緑の粉
バッテリーを使用しているとプラス端子とマイナス端子に粉が発生します。
※バッテリーの端子は鉛。接続ケーブルは銅。
緑色の粉は酸化による銅の錆ですが、長時間使用した証拠になります。
白い粉は放電時に発生するサルフェーション(硫酸鉛)です。
このサルフェーションはバッテリーが劣化している大きな特徴なので、バッテリーの寿命が近いと言われています。
硫酸鉛の発生については下の化学反応式をご覧ください。
バッテリー放電、充電で容量の変化を測定
化学反応式と現実を比較し変化する質量を調べる
バッテリーの寿命には極板の故障、電極間のショート、容量の縮小があります。
この故障全てに関係してくるのがサルフェーション付着の増加です。
サルフェーションとは放電する時に電解液と電極で発生する硫酸鉛です。
電解液の希硫酸と陰極の鉛、陽極の酸化鉛が化学反応をおこしてサルフェーションが発生しますが、サルフェーションは抵抗になり、電圧を下げてしまいます。
そのため、バッテリーの寿命を伸ばすためにはサルフェーションを効率よく抑えなくてはなりません。
ここでは、バッテリーの使い方でサルフェーションがどの程度増えていくのか調べていきます。
専門家が充電放電による変化を解説
自動車バッテリーの鉛蓄電池とは
1800年代後半に実用化された代表的な二次電池で、鉛Pb板と酸化鉛(Ⅳ)PbO2板を希硫酸H2SO4に浸した電池のことを鉛蓄電池といいます。
外部の直流電池から放電時とは逆向きの電流を流すことで、起電力を回復させることができる電池のことを二次電池といいます。このような逆向きの電流を流すことを充電といい、二次電池は蓄電池とも呼ばれます。引用:理系ラボ
自動車のバッテリーはこの鉛蓄電池を使用しています。
EVなど電気自動車はリチウムイオン電池を使用しています。
鉛蓄電池の化学反応式
上の化学反応式を見るとわかりますが、放電すると陰極、陽極どちらもPbSO4(硫酸鉛)が付着します。
充電すると還元されて硫酸鉛は溶け出し、元に戻るのがわかりますが、充電をせずに放置すると硫酸鉛は固まって簡単には溶けなくなります。
多くの鉛蓄電池専門家はこのように言っています。
放電終始電圧を下回ると結晶性サルフェーションPbSO4が極板に付着。通常のサルフェーションは充電で溶けて電解液に還元するが、結晶性は取れないので充電容量が減る。
サルフェーションは電流を流しません。
サルフェーションが電極板に付けば電流を流す面積が減るので容量が下がります。
鉛蓄電池の寿命が短くなる放電とは
鉛蓄電池は深い放電(充電された電気量を多く取り出す放電)と充電を繰り返す場合より、浅い放電と充電を繰り返すほうが電池寿命が延びる。ちなみに鉛蓄電池は放電が進むにつれて内部抵抗が増加し、放電終止時に最大の抵抗値を示す。これは放電反応に伴って電極板に導電性の悪い硫酸鉛が形成されるためである。また、放電した鉛電池を放置しておくと白色硫酸鉛が形成されるサルフェーション現象が起こる。いったんサルフェーションが起こった鉛蓄電池は、電池容量が減少し、元の容量を維持することができないので取扱いには注意が必要である。
これは先ほどの化学反応式を見ても分かるように放電では硫酸鉛が付着するので、早い段階で硫酸鉛を溶かせば容量が回復するという事です。
これが浅い放電と充電が寿命を長くする理由です。
鉛蓄電池を満充電した状態で全く放電させなかったとしても電池内部では化学反応が起こり、時間の経過とともに電池容量が低下する。これを自己放電という。このため鉛蓄電池を長期間にわたって放置しておくと自己放電して、やがては過放電となりサルフェーション現象が起こる。このため定期的に電解液の比重を計測して、放電が進んでいるようであれば充電を行う必要がある。おおむね1〜3か月程度に1回程度、自己放電を補う補充電を行えば十分である。
こちらでも寿命に関係するサルフェーションを抑えるために早めの充電が必要だと書かれています。
バッテリー充電の注意点
充電が進むと前述したように鉛蓄電池の端子電圧が上昇した後、水の電気分解が起こり端子電圧は一定になる。この水が電気分解されるときに生ずる熱によって蓄電池の温度は上昇する。このとき電極活物質が劣化するとともに、特に陽極の格子の腐食が進むため電池の寿命に影響を及ぼす。
このように充電は熱が発生し、劣化に繋がります。
温度が高いと化学反応も活発になる為、硫酸鉛がより多く発生します。
化学反応 = 電子が流れる
冬場の朝はエンジンがかからないのに昼だとエンジンがかかるといった経験をされた方もいると思います。
これは温度が上がる事で化学反応が活発になるからです。
以上の事から、電池を保管したいなら冷やすとよい、ということも理解できます。
電池にとって熱は力を十分発揮しますが、本体に負担をかけます。
充電する熱で極板を劣化させ、熱で化学反応を活発にすることで硫酸鉛を生成するので、充電は弱く長くした方がバッテリーの寿命が長くなります。
鉛蓄電池の充電完了時には、水の電気分解によって電池が発熱する。また、放電時は電池の内部抵抗が増加するため、内部抵抗によるジュール損が発生して電池温度が上昇する。このため充放電時は0〜40℃程度の周囲温度の範囲で使用することが望ましい。
以上のことからエンジンルームは暑くなるのでバッテリーの横に断熱材を入れるのは長寿命には効果的だと言えます。
なお、充電すると水が電気分解し、水素と酸素が発生して電解液が減りるので電解液の量は注意して充電して下さい。
バッテリーの容量とCCA
容量など、バッテリーに書かれている数値を見てわかる事をGSユアサのホームページを引用して説明します。
①は容量、数字が多ければ容量は大きくなります。
②はバッテリーの幅と高さ。下を参照。
③はバッテリーの長さ。下を参照。
④は端子の位置です。
④は「R」か「L」しかありませんが、Lの場合は上の図の左がマイナスになり右がプラスになります。
日本では5時間率容量という規格で容量を表します。
「完全充電したバッテリーを25℃で公称容量の1/5の定電流で放電し、放電終止電圧の10.5Vになるまでの電流(A)と時間(h)の積」 引用:GSユアサ
以下はサイズ別の容量ですが、メーカーや型番によって多少の差はあります。
サイズ | 5h率容量 | CCA |
44B19L | 28Ah | 310CCA |
55B24L | 36Ah | 370CCA |
80D23L | 52Ah | 500CCA |
M-42 | 34Ah | 300CCA |
Q-85 | 52Ah | 550CCA |
S-95 | 64Ah | 650CCA |
S34B20 | 34Ah | 255CCA |
S46B24 | 44AH | 295CCA |
CCA (Cold Cranking Ampere)とは、コールド・クランキング・アンペアの略で、そのバッテリーにエンジンを始動させる能力がどれだけあるかを測る性能基準値です
正確には、-18℃の環境で放電して30秒後7.2Vとなる電流値を言います。
比重で充電率を判断
比重を測定するとある程度の充電量を判断できます。
とてもよく調べているサイトのデータを引用させていただきました。
バッテリー上りをした後の車の状態を調べる
ルームランプなど電装品をつけたまま消し忘れてしまい、車を一晩中放置したことのある方も多いはずです。
そういった場合、下の4つが気になると思います。
- どれくらいの時間でバッテリーが上がるか?
- その後、エンジンはかかったが乗ってて大丈夫か?
- 充電するとどれくらい容量が回復するか?
- 寿命はどれだけ短くなったのか?
これらを調べる為に電圧、CCA、内部抵抗、比重を計測し、バッテリー上りをおこす時間と容量を実験します。
使用材料
- 軽自動車
- 新品のM-42バッテリー
- バッテリーテスター
- 比重計
- サーキットテスター
- 充電器
車に流れる電流を測定(暗電流、ルームランプ、スモール等)
実験の前に基本の電流をご紹介します。
車は電装品を使えば電流が流れます。
ライトやスイッチの消し忘れでバッテリー上りをする、よくある電装品の電流を測定しましたので参考にして下さい。
軽自動車の測定結果- 暗電流(エンジンOFF,電装品全てOFF直後0.2A)60秒後0.02A
- IG-ACCの時 2.63A
- IG-ONの時 6.9A 60秒後4.45A
- ルームランプ点灯 0.58A
- 半ドア 1.17A
- スモールランプ点灯 2.42A
- ヘッドライト 11.35A
軽自動車の多くはM-42バッテリーを使用しています。
M-42の新品バッテリーで上の電流を流した時にバッテリー上りしてしまう時間を計算しました。
M-42は34Ahなので、「34÷電流」で放電終止電圧が計算できます。
状態 外気温20℃ | バッテリー上がり時間 |
暗電流 | 70日 |
IG-ACCの時 | 13時間 |
IG-ONの時 | 8時間 |
ルームランプ点灯 | 2日半(58時間) |
運転席 半ドア | 1日(29時間) |
スモールランプ点灯 | 14時間 |
ヘッドライト点灯 | 3時間 |
暗電流とは何もしていない状態での電流です。
車はオーディオや時計などの設定を保持する為に何もしていない時でも最低限の電流を流し続けています。
上の表で暗電流で70日と言う事は、バッテリーを取り付けて車に1度も乗らずに放置すると70日でバッテリー上りをしてしまうということです。
少し早いような気がしますが、ルームランプ点灯では2日半も、もちます。
夏場ですと気温が高い為、化学反応が多くなり放電終始電圧になる時間が早くなります。
実験①.M-42バッテリーを放電
新品のM-42バッテリー
ルームランプを消し忘れを想定した実験
- バッテリーを0.6A(ルームランプ点灯)で放電させる
- 10.2Vまでの放電時間、電圧、CCA、内部抵抗を測定
- 放電終止電圧に達したら1時間パルス充電する
- 良好バッテリーを並列に繋ぎ強制的に充電する
- 1時間後、8.0Aの通常充電する
※比重は最初と完全放電後と完全充電後の3回測定する
実験結果①
比重(新品初期)+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
1.22 | 1.24 | 1.24 | 1.24 | 1.24 | 1.23 |
電圧 | CCA | 内部抵抗 |
12.44V | 405A | 6.04mΩ |
ルームランプ点灯相当の0.6A放電
放電時間 | 電圧 V | CCA A | 内部抵抗 mΩ |
1h | 12.40 | 407 | 6.01 |
2h | 12.35 | 401 | 6.11 |
3h | 12.33 | 396 | 6.17 |
4h | 12.30 | 391 | 6.25 |
5h | 12.28 | 382 | 6.40 |
6h | 12.27 | 380 | 6.45 |
7h | 12.24 | 375 | 6.53 |
8h | 12.21 | 370 | 6.61 |
9h | 12.18 | 362 | 6.78 |
省略 | |||
24h | 11.80 | 287 | 8.54 |
33h | 11.51 | 227 | 10.77 |
40h | 9.80 | 100 | --- |
24時間の時点ではエンジンはかかりましたが、セルモーターの回りが弱いです。
33時間でエンジンはかからなくなりました。
その後、約40時間で放電終止電圧になりましたが、そこから急激に電圧が下がり始めて10V以下になってしまいました。
比重(放電後)
+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
-- | -- | -- | -- | -- | -- |
比重が計れないほど下がってしまいました。
パルス充電と高い電圧で充電
最初の1時間はパルス充電で電極板に付着したサルフェーションを分解します。
パルス充電は13.5Vと0.5Vの電圧を交互にかけます。
次に10V以下では充電できないため、12V以上のバッテリーを並列に繋ぎ、充電器もセットして強制的に充電していきます。
10V以上になったところで、並列に繋げたバッテリーを外し単体で8.0Aの電流で充電しました。
充電時間 | 電圧 | CCA | 内部抵抗 |
1h | 8.02 | 2 | --- |
3h | 9.06 | 5 | --- |
6h | 12.79 | 352 | 6.94 |
充電で新品に近い数値まで回復しました。
比重(充電後)
+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
--- | 1.11 | 1.11 | 1.11 | 1.11 | 1.11 |
しかし、比重はかなり低いです。
1番のセルは比重がまったく回復しませんでした。
長時間の放電でデンドライトショートやサルフェーションがおきている可能性があります。
デンドライトショートは長い放電によって陽極板から糸状の鉛が析出し、セパレーターの隙間を抜けて陰極板に到達して極板を直結してしまうことです。
サルフェーションは硫酸鉛が極板に析出することで電解液の硫酸が減ります。
放電時間が長く析出量が多すぎると元に戻れず、比重は回復できません。
しかし、2日後にもう一度バッテリーをチェックしたところ、内部抵抗や比重が回復していました。
時間 | 電圧 | CCA | 内部抵抗 |
2日放置後 | 12.59 | 396 | 6.17 |
完全充電後 | 12.86 | 401 | 6.11 |
+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
1.18 | 1.18 | 1.19 | 1.19 | 1.19 | 1.19 |
+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
1.20 | 1.21 | 1.22 | 1.22 | 1.21 | 1.21 |
2日放置後に完全充電でCCA、内部抵抗は新品に近い数値まで回復しました。
比重も平均で0.02下がった程度なので、このまま車のエンジンをかけてオルタネーター充電で使用を続けていればほぼ新品の比重にまで回復すると予想されます。
以下のグラフはルームランプ消し忘れの9時間までのグラフです。
9時間消し忘れではCCAも内部抵抗も良好の範囲内なので、エンジンをかけてオルタネーターで充電すれば寿命は変わらず新品状態まで回復できます。
40時間を超えて放電終止電圧以下になると充電してもマイナス側の1セルの比重だけは回復しなかったですが、これは過放電による電解液の分解が多すぎて希硫酸が完全に混ざっていない状態で比重を計った結果、測定不能になっていたようです。
2日放置後は電解液が十分混ざっているので正確な比重測定ができました。
さらに電解液が混ざったところで再充電すると還元反応が活発になり硫酸鉛を溶かし、電解液に戻すことで比重がより回復するようです。
以上の事から短期間の過放電のバッテリーはゆっくり長く充電することで電解液の還元スピードと電解液の混ざりのバランスがよくなり、回復しやすくなることがわかりました。
実験②.40B19バッテリーを放電
新品の40B19バッテリー
ルームランプを消し忘れを想定した実験
- バッテリーを0.6A(ルームランプ点灯)で放電させる
- 9時間放電させ、電圧、CCA、内部抵抗を測定
- 2.0Aで充電する
- 1時間おきにバッテリーテスターを使用して電圧、CCA、内部抵抗を測定
※比重は最初と完全放電後と完全充電後の3回測定する
実験結果②
比重(新品初期)+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
1.24 | 1.25 | 1.25 | 1.25 | 1.25 | 1.24 |
電圧 | CCA | 内部抵抗 |
12.54V | 284A | 10.77mΩ |
ルームランプ点灯相当の0.6A放電
放電時間 | 電圧 V | CCA A | 内部抵抗 mΩ |
1h | 12.53 | 284 | 10.77 |
2h | 12.51 | 284 | 10.77 |
3h | 12.49 | 284 | 10.78 |
4h | 12.47 | 284 | 10.78 |
5h | 12.44 | 284 | 10.79 |
6h | 12.41 | 283 | 10.80 |
7h | 12.40 | 283 | 10.81 |
8h | 12.37 | 283 | 10.82 |
9h | 12.33 | 283 | 10.83 |
9時間の放電ではほとんどかわりません。
比重(放電後)+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
1.22 | 1.22 | 1.22 | 1.22 | 1.22 | 1.21 |
2Aで8時間充電
充電時間 | 電圧 | CCA | 内部抵抗 |
8h | 12.80 | 330 | 9.29 |
充電で新品以上の数値になりましたが、比重で物質量の変化をみると劣化がわかります。
比重(充電後)
+側セル1 | セル2 | セル3 | セル4 | セル5 | -側セル6 |
1.22 | 1.22 | 1.23 | 1.23 | 1.23 | 1.22 |
比重は少し低いです。
比重はどれだけ化学反応をしたかの判断にもなりますので、劣化の判定に役立ちます。
どちらのバッテリーも9時間の放電でしたら十分回復できますが、30時間以上の放電ではバッテリーは回復不能になります。
化学反応式でサルフェーションの増加量を計算してみます。
化学反応式と実験結果のサルフェーションの質量を比較
ファラデー定数を使って0.6Aの電流を9時間流した時にできるサルフェーションをおおよその数値で計算しました。
サルフェーションは化学反応式でいうPbSO4です。
流れる電子のモル数を出してから、鉛の電極に付着した硫酸イオンの質量を比例式で求めます。
電子の質量
電子のモル数をxとして9時間流した時の電子の質量を計算します。
x(mol)×9.65×10^4(C/mol)=32400(s)×0.6(C/s)
x(mol)=0.20
SO2分の質量
反応式を見ると2molの電子を流した時に陽極板のPbO2がPbSO4になるので陽極板にSO2の質量だけ付着します。
SO2の質量はSが32、Oが16なのでS1つとO2つで64gになります。
2:0.2=64:y
y=6.4
陽極は6.4g増加
SO4分の質量
負極は2molの電子が流れた時にSO4が増加します。
2:0.2=96:Z
Z=9.6
陰極は9.6g増加
合計で16g増加しているので、電解液の比重はその分低くなっているはずです。
先ほどの40B19バッテリーの実験結果で希硫酸の質量を計算してみます。
電解液は1セル約250mlなので比重が1.25から1.21に下がった時の希硫酸が減った質量を計算すると10g減少している事がわかりました。
計算では16gですが、実際は10gなので6グラムの誤差がありますが、これはバッテリーメーカーのサルフェーション防止技術が組み込まれている効果だと考えられます。
しかし、充電しても比重は1.22になっただけなので、充電しても7gのサルフェーションが残ったことになります。
化学反応式では放電と充電では逆になるだけですが、実際は少し残ります。
その理由は析出した硫酸鉛が多くなると結晶化したり沈殿するなどで、元に戻りにくくなっていると考えられます。
バッテリーが上がる時間と寿命の変化
析出した硫酸鉛が結晶化と沈殿する前に充電すればバッテリーは新品状態まで回復します。
実際に車では放電で硫酸鉛は析出しますが、エンジンがかかっていればオルタネーターによってすぐさま充電されるのですぐに溶けて希硫酸と鉛に戻ります。
以上のことからルームランプの消し忘れ等で、放電のみで「バッテリー上りをしてから充電する」のと、「バッテリー上り前に充電する」のとでは大きく寿命が変化します。
バッテリー上り前にエンジンをかけてオルタネーターによって充電させて自然回復させることが出来れば、バッテリーの寿命にはほぼ影響は出ません。
では完全にバッテリーを上げてしまった場合の寿命をお伝えします。
1.ルームランプ消し忘れでバッテリーが上がる時間は? |
33時間でバッテリー上り。40時間で放電終止電圧になり、回復不可能になるケースが多いが、低い電流でゆっくり充電することで完全回復することもある。 |
2.その後、エンジンがかかったら乗ってて大丈夫? |
エンジンがかかれば、問題ない。そのままエンジンをかけ続けて1時間ほど充電する必要がある。その際、ライト、オーディオ、エアコンなど電装品は全てOFFにすること。 |
3.充電するとどれくらい容量が回復するか? |
バッテリー上りまで放電させない状態でしたら、低い電流(0.8A程度)でゆっくり2日以上充電すれば85%以上は回復する。バッテリー上りをしてしまった場合はその後の放置時間にもよるが、すぐに充電すれば70%ほどの容量になってしまうが復活する。2日以上充電せずに放置すると回復できない可能性が高い。 |
4.寿命はどれだけ短くなったのか? |
9時間放電した後、充電を完全に終わらせると電圧、CCA、内部抵抗は完全に復活したが、比重で判断すると新品の状態より15%容量が減少した。4年の寿命バッテリーの場合、7ヶ月寿命が短くなり、約3年半の寿命。 |
参考サイト
- 寿命とバッテリーあがり:古河電池
- 自動車のバッテリーの寿命は何年?交換時期を判断するポイントも解説:カーセブン
- 車のバッテリーの寿命と交換時期の判断方法をプロが解説:ジェームス
- 鉛蓄電池の原理・仕組み(充電と放電の反応式・仕組み・電圧と寿命):理系ラボ
- 二次電池について:日本電気技術者協会
- バッテリーの型式と選び方:ジーエスユアサバッテリー
- CCAとは?バッテリー寿命に欠かせない基準値やテスト方法:自動車業界専門求人サイト「メカニッ求」
- バッテリー測定について:鉛蓄電池の延命装置、『瞬速「BR」正規取扱店』