自動車力学の物理計算方法をご紹介します。今回は力のつり合いです。重心や荷重の変化を計算します。
計算フォームに入力するだけで簡単に計算できるので自動車の制動や運動、エネルギーの計算や整備士試験問題、検査員試験問題、構造変更計算の答え合わせなどに使ってください。
なお、構造変更で最大安定傾斜角度計算書が必要な場合、検査前に計算して提出しますが、現車持ち込み検査で重量や寸法が変わる場合があります。
その場合は再計算になりますが、このページで入力するだけで簡単に再計算できます。
お気軽にご利用して下さい。
目次
自動車物理計算に使う記号の説明
CG: 車両重心 | W: 車両重量 |
M:荷物の質量 | Wf:前輪荷重 |
Wr: 後輪荷重 | L: ホイールベース |
b: トレッド | Lf: 前輪~重心 |
Lr: 後輪~重心 | H: 重心高 |
Tf: 前輪トレッド | Tr: 後輪トレッド |
r: タイヤ半径 | β:最大安定傾斜角 |
計算に必要なホイールベースやトレッド幅、軸重などは車検証と新車カタログに載っています。
新車カタログはネットで「プリウス カタログ」などと検索すると過去の新車カタログも見る事ができます。
その他に車名、四面図と検索すれば車の細かな寸法が見れます。
検索例「ヴォクシー 四面図」
最大安定傾斜角度は一般公開されていない場合もあります。
その場合は、このページの「最大安定傾斜角度の項目」を参考にして下さい。
車輪荷重計算
力のモーメントを計算して荷重を出します。
空車状態の荷重は車検証に記載されているので、ここでは車内に乗る人や荷物で変化する荷重計算をご紹介します。
リヤシートに人(Mkg)が乗った場合の荷重を計算します。
前輪タイヤWfを支点にすると長さLdでMの下向きの力と長さLでWrの上向きの力は同じになるので、つり合いを考えると
$$ Ld\cdot M-L\cdot \Delta Wr = 0 $$
この式になります。
変形させると以下の①になります。②はWrを支点にした計算式です。
式①後輪荷重$$ \Delta Wr= \frac{Ld\cdot M}{L} $$
式②前輪荷重$$ \Delta Wf= \frac{M(L-Ld)}{L} $$
トラックの場合、乗員が前軸中心位置として計算するケースがあります。
その時はLcは軸中心なので0を入力し、M2に定員数だけの荷重を入力して下さい。
荷物が1つだけの計算でしたらLcとM2は空欄でかまいません。
重心高 計算(水平と傾斜状態の輪荷重がわかる場合)
タイヤ半径の値が必要になるので、重心高を計算をする前にタイヤ半径を出しておきます。
下の画像はタイヤの側面です。青枠のサイズを入力します。
このタイヤ半径を下記計算フォームで使います。
では重心高を計算します。
前輪を持ち上げた状態の後輪荷重を測定して重心高を出します。
力のモーメントのつり合いで
$$ (Wr+\Delta W)L \cosΘ-W(Lf \cosΘ+Hc \sinΘ)=0$$
注※スマホで見る時は右端までスクロールしてください。
この式になります。Hcを求める形に変えて整えると下の式になります。
式③Hc+r重心高
タイヤ中心から重心までの高さHcとタイヤの半径rを足すと重心高がでます。
$$ Hc-=\frac{L \cdot \Delta W}{W \tanΘ} $$
$$ H=Hc+r $$
次は車を傾斜させて荷重を測ることができない場合の計算方法です。
機材を必要としないので、その場で計算できます。
最大安定傾斜角度計算書の作成サポート
傾斜状態の輪荷重を測定するには重量測定機が必要です。
実際に車も必要になるので、ここでは車検証、諸元表、四面図の数値で新車時の重心高を出します。
新車時の重心高が分かれば車高を上げた時の高さを測定してプラスするだけで現在の重心高が出せます。
現在の重心高が分かれば実車の最大安定傾斜角度がわかります。
ここで紹介する計算は「自動車技術総合機構審査事務規定7-6-1」を参考にしているので、構造変更手続きに提出する最大安定傾斜角度計算書に使えます。
算出手順
- 前後輪を結ぶ直線と車両中心線のなす角 α
- 安定幅 B
- 重心高 H
- 最大安定傾斜角度 β
この4つの数値はそれぞれ関係しているので、今わかっているデーターだけで重心高や最大安定傾斜角度を求める事ができます。
それでは1から解説していきます。
1.なす角α 計算方法
このなす角は安定幅を出すために必要です。安定幅が出れば最大安定傾斜角度も出せます。
最大安定傾斜角度が出れば重心高が出ます。
まず最初になす角を出して下さい。
式④$$ α= \tan^{-1} \frac{Tr-Tf}{2L} $$
このなす角を次の安定幅の計算で使います。
2.安定幅B 計算方法
$$右側 Br=\frac{ \cosα (Wfl\cdot Tf+Wrl\cdot Tr)}{W} $$
$$左側 Bl=\frac{ \cosα (Wfr\cdot Tf+Wrr\cdot Tr)}{W} $$
※上の式のlとrは左右です。例)Wfrは前輪右荷重
点を支点にすると点からBr進んだGの位置に車両重量がすべてかかりますのでBr×Wになります。
つり合いを考えると(Wfl×Tfcosα)と(Wrl×Trcosα)を合わせた力と(Br×W)が同じでなければなりません。
そうしますと以下の式になります。
$$ Br\cdot W= Wfl\cdot Tf\cosα+Wrl\cdot Tr\cosα $$
この式はWを右辺にもっていき、cosαをカッコの外に出せば右側安定幅の式になります。
このように安定幅は左右別々に計算しますが、ほとんどの乗用車は最大安定傾斜角度の左右が同じです。
ですので安定幅も左右同じと言えるため、下の式のようにまとめて計算する事ができます。
式⑤$$ B=\frac{ \cosα (Wf\cdot Tf+Wr\cdot Tr)}{W} $$
※最大安定傾斜角度計算書を作成する場合は左右別々に計算して下さい。
3.重心高H 計算方法
最大安定傾斜角度は重心高がわからないと計算できません。
新車時の最大安定傾斜角度はディーラーもしくは自動車メーカーのお客様相談室のような所に問い合わせると教えてもらえます。
最大安定傾斜角度と2で計算した安定幅を入れて新車時(標準)の重心高を出します。
式⑥$$ H= \tan^{-1} \frac{B}{β} $$
諸元表や四面図には重心高は記載されていません。
参考程度よければ下の車種別最大安定傾斜角度を使って重心高を出して下さい。
最大安定傾斜角度 参考値
車名 | 最大安定傾斜角度 |
アルト | 49° |
ワゴンR | 46° |
NBOX | 44° |
タント | 45° |
ヴォクシー | 47° |
ハイエース | 45° |
RAV4 | 51° |
ハリアー | 50° |
プリウス | 52° |
ハチロク | 59° |
最大安定傾斜角度は軽自動車で44~49、ミニバンは47~49、SUVは50~51、セダンとクーペは52~59が一般的です。
計算に使用する場合、上記車両と形が似ている車でしたら参考になると思います。
カタログの全高が高ければ最大安定傾斜角度は少なくなります。
カタログのトレッドが短いと最大安定傾斜角度は少なくなります。
正確な計算ではなくなりますが、どの程度か知りたい方はカタログで上記車両と比較して高さが高ければ不安定になるので最大安定傾斜角度を1°下げる、など調整して計算に使って下さい。
例最大安定傾斜角度と全高の関係
タント | NBOX |
全高1,755mm | 全高1,780mm |
45° | 44° |
4.最大安定傾斜角度β 計算方法
新車時の最大安定傾斜角度が分かれば標準の重心高を計算で求める事が出来ます。
標準の重心高が分かれば改造して車高を上げた時の最大安定傾斜角度が計算できるようになります。
改造後の重心高は標準重心高に車高が上がった分だけ足します。
例)標準重心高500mmで車高50mm上げた場合550mmです。
この重心高が分かれば構造変更に使う最大安定傾斜角度計算書が作成できます。
式⑦$$ βr= \tan^{-1} \frac{Br}{H} $$
上の式は右側の角度です。下の式は左側の角度です。
式⑧$$ βl= \tan^{-1} \frac{Bl}{H} $$
多くの車が左右同じ角度なので1つにまとめて以下の式にしていますが、正確に計算するには右と左の安定幅をそれぞれ入力して左右の最大安定傾斜確度を出してください。
式⑧$$ β= \tan^{-1} \frac{B}{H} $$
少し誤差はありますが、簡単に最大安定傾斜角度を出す方法もご紹介します。
以下のように三角関数tanを使うだけで簡単にだせます。
$$ β= \tan^{-1} \frac{b}{2H} $$
参考資料
- 初めての自動車運動学
- 自動車技術総合機構